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私が目覚めて一年がたった。一年も経つと曖昧だった記憶も段々と思い出だしてきた。例えば私にはパパがいたけど私がもっと小さかった頃に亡くなってしまったこと。ここは私とおじいさんしかいないけど、記憶の中ではもっと周りに人がいたってこととか。
最近の私の楽しみはおじいさんから貰った大量の本を読むことだった。今日は気になった本があるから外に出て読もうかな。本棚から一冊の本を選び、外に続く長い廊下を歩いていく。最近やっとおじいさんは私が外に出ることを許してくれたの。ずっと危ないからダメって言われてたからとても嬉しいわ! でも、実際出てみるとあんまり面白くなかったんだけどね……。
「ねえ、お外に出るから着いてきて」
私は人形の、といっても足はキャタピラーで顔もほとんど人間には見えないロボットに向かって話かける。
ロボットは微かに動作音を発しながら、私の言葉に振り向いた。ちゃんと私の言うことが分かるなんて、頭がいいわよね。
おじいさんに外に出るときには、ロボットと一緒に行くようにって言われたの。別にうるさくする訳じゃないし、読書の邪魔にもならないから私はちゃんと言われたことを守ってる。
一体のロボットを伴いながらしばらく歩くと、この建物から外にでることのできる唯一の扉の前まで辿り着く。壁に取り付けられたスイッチを押すと自動でその扉が開く。風が私の金色の髪をたなびかせる。その髪を右手で抑えつけて歩きだす。辺りには私が出てきた建物以外何もなく、閑散としていた。少し歩いた所で座るのにちょうどよさそうな石があったのでそれに腰を下ろし持ってきたうちの一冊の本を開く。私が本をめくる音と風が吹く音以外は何も聞こえてこない。本を読むのにはちょうどいいわ。ちょっと寂しい気もするけど……。
しばらく本を読んでいると後ろから私を呼ぶ声があった。まあ、私を呼ぶ人なんて一人しかいないんだけどね。
「エリス、こんな所で本を読んでいたのか。今度は何の本を読んでいるんだい?」
「歴史の本よ。ずっと昔この近くで起こった戦いについて書いてあるの」
「おお、そうかそうか。いろんな本を読むといい」
「うん。私、本を読むの大好きだもん!」
私がそういうとおじいさんは笑顔でうんうんと頷いていた。私は本に目線を戻し、気になっていたことをおじいさんに聞いてみることにした。
「ねえ、おじいさん。この本には森の中で戦いが起こったって書いてあるの。でも森って……」
「うん? 森かい? エリスは森を見たことがないからなあ。森は木がいっぱいあって、多くの生物達が暮らしていてとても綺麗な所じゃ」
「森が何かくらい私だって分かるわ! 私が言いたいのは……」
私は顔を上げて、本に書いてある通りなら森があるはずの場所を見て言う。
「何で今は何もなくなっちゃったのかってこと」
「…………」
そこには見渡す限りの荒野が広がっていた。
最終章です。よろしくお願いします。




