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深層世界  作者: NAAA
第三章 
40/65

10

 ゴンドラから降りて、辺りを見渡す。ここがエリア0か……。他のエリアよりも高い位置にあるので、幾分か空が近く感じられる。


「どうする、まっちゃん?」


 俺がこれからの予定を尋ねると、まっちゃんは今にも走り出しそうになりながら答える。


「すぐに聖堂とやらに向かうぞ! ヤマツカミがクレイオはそこにいると言っていた!」


 確かにそうは言っていたが、俺達はその聖堂がどこにあるのかも分からない。聖堂がこの世界にあるということにも違和感を覚える。聖堂とは何かを祭った祭礼の場のことをいう。何か祭られるような物がこの世界にあったか? 


「いや、聖堂がどこにあるのか分からないだろ……。マリアは知ってる?」

「いいえ、私もエリア0についてはそこまで詳しい訳ではなくて……」


 唯一の頼みであったマリアも知らないらしい。


「そんなものは誰かをとっ捕まえて聞き出せばいいんだよ!」


 まっちゃんはじれったそうにしてそう言う。とっ捕まえるという言葉には語弊があるが、誰かに聞けば不可能ではないだろう。今のまっちゃんは先ほどのヤマツカミとの会話で少し冷静ではいられなくなってるのかもしれない。どうにもこの状態のまっちゃんを直ぐに向かわせるのは得策ではない気がする。


「いや、それは止めた方いいよ。しっかり休んでから明日いこうよー。僕、もう疲れたし。それに……いつも準備不足がないようにうるさいくらい言ってくるのはまっさんでしょ。今焦ってもしょうがないよ」


 大げさに突かれたアピールをしながらそう言ってくるのはアルだ。どこかふざけたような口調はいつもと変わらないが、その表情は真剣でまっちゃんを見据えている。


「…………」


 まっちゃんもアルの言葉には反論できないようで黙ってしまう。


「アルの言う通りだ。明日、万全の準備を整えてから向かおう。……正隆もそれでいいな?」

「分かったよ……」


 最後にシコウが諭すように言うと、ようやくまっちゃんが折れた。


「よし、そうと決まれば今晩泊まる場所を決めないと。えっと、マリアはどうする……?」


 マリアはエリア0まで送り届けるまで付き添うというのが当初の約束だ。マリアがすぐに兄に会いにいくとなれば、ここでお別れということになるかもしれない……。俺が

不安に思いながら聞くと、マリアは憤慨したようにほほを少し蒸気させて言ってきた。


「あなた達は私を聖堂まで連れていかないと勝手に決めているようですけど、私もついて行きますから! ここまで一緒にきたんですから……私もその場に立ち会わせてください。それに、泊まる場所なら兄の家を使って頂いて構いません。それくらいの広さはあるはずですから」

「いや、マリアにこれ以上危険な目に会わせる訳には……」


 マリアのとまだ一緒に居られるならそれに越したことはないが、マリアを連れて行くかどうかはそれとは話が別だ。俺が葛藤していると、まっちゃんがふうっと溜息混じりに言ってきた。どうやら少し落ち着いたらしい。


「傍にいた方守りやすいだろ。奴らはまたマリアを狙うと明言しているんだ。それにどうせ俺達が突破されたらクレイオを止められる人はいないだろうからな。泊まる場所を提供してくれるのもありがたい」

「まあ、そうかもしれないけど……」

「では、それで決定です! 兄の家はこちらですので着いてきてください!」


 俺がまだ逡巡しているのをよそに、マリアはどんどん先へと進んでいってしまう。はあ……マリアには敵わないな。どうやら彼女といられる時間がもう少しだけ伸びたようだ。俺はそっと胸を撫で下ろす。

 奴らと再びま見えるまで、後一日。何が起こるのか、それが分かるのは聖堂に行ってみなければ分からない。だから今は、明日に備えて英気を養うとしよう。



 マリアに着いて行くと程なくしてある家の前で彼女は止まった。


「ここが兄の家です。どうぞお入り下さい」


 マリアが住んでいたような豪邸ではないが、十分に大きな家だった。エリア0の居住区はこの辺りにしかないようで、そのどの家々も立派なものだった。

 マリアがチャイムを鳴らし、インターホンに向かって喋りかける。


「お兄様、マリアです。つい先ほどエリア0に到着しました」

「おお、マリアか! 思ったよりはやかったな! 今鍵を開けるから入ってきなさい」


 すると直ぐにガチャっという音が鳴って鍵が開く。


「マリア……本当に俺達がお邪魔してもいいのか?」

「構いません。兄も命の恩人と言えば快く迎えてくれるはずです」


 俺が少しばかり遠慮しているのは気にも留めず、マリアはすでに玄関の扉を開けて中に入ろうとしていた。


「マリア! よく来たな! 疲れただろう、今日はゆっくり休みなさい」


 中から小走りをして近づいてくる音があり、マリアにそう呼びかける。それを聞いて俺もひょこっと扉から顔をだすと、マリアと同じ金色の髪をした20代半ばと思われる男が立っていた。顔はあまりマリアとは似ていない。平均より少し瘦せているようで、どこかヒョロっとした印象を受ける。


「お兄様、お久しぶりです」

「マリア、後ろの彼等は誰だい? 僕は君とノイさんの二人で来るものだと思っていたのだが……」


 マリアの後ろに控える俺達に気付いたようで、彼は不審げに聞いてきた。


「ええ、その予定でしたが私が我が儘を言って一人で行かせてもらうことにしたのです。しかし、昨日エリア0に入ろうとしたところ誘拐されそうになって……それを助けてくれたのが彼等です。話を聞くと彼らもエリア0に用事があるというので、お礼がしたいと思って連れて来ました」


 マリアが話を少し偽りながら説明する。一週間近くも見ず知らずの男と行動を共にしたと正直に言えば俺達の印象もあまりよくなくなるだろう。だったらつい先日助けられたと言った方がいい。こういう時、マリアは頭の回転が速くて助かる。


「おお、そういうことか……。マリアも大変だったな……。ということは妹の命の恩人ということになるな。お礼と言っては何だが、ぜひ上がっていってくれ。僕はマリアの兄のロナウドだ。エリア9の代表として選ばれてここにいる」


 先ほどの不審気な様子は綺麗さっぱりなくした笑顔でマリアの兄、ロナウドさんは簡単な自己紹介をしてきた。それを聞いて俺達も名前を言うだけの簡単な自己紹介をする。俺達とロナウドさんのやり取りが終わったのを見て、マリアがロナウドさんに少し甘えた声で頼むように言った。


「あの、お兄様……。彼等泊まる所を探しているみたいなの……。だから一日だけこの家に泊めることはできないかしら? 私、少しでも恩返しがしたくて……」

「なに、そうなのかい? だったらもちろんこの家を使ってくれていい! 一人には広すぎて使っていない部屋もいくつかあるからね」


 ロナウドさんはこれも快く承諾してくれた。では、マリアとロナウドさんの言葉に甘えるとしよう。通された部屋に荷物を置き、ロナウドさんに簡単に家の説明をされる。ロナウドさんはマリアが誘拐された時どうやって助け出したか興味津々に聞いてきたが何とかごまかして乗り切った。

 そうこうしていると外が暗くなり始め、そろそろ夕食にしようという話になった。この家にもメイドさんはいるらしく腕によりをかけた夕食を振舞ってくれた。その時ロナウドさんに聖堂がどこかを聞いてみると


「聖堂かい? それならエリア0の中心の方に行けば嫌でも目に着くよ。エリア0でも1,2を争う立派な建物だからね」


 と答えてくれた。もう少し話を聞くとここから歩いて二、三十分ほど歩けば着く大きな白い建物なようだ。マリアがその話を聞いて「お兄様、私も一度見て見たかったので一緒に行ってきます」と言って俺に釘をさすようにジロっと見てきた。いや、もう君を連れていかないとは言わないから、安心してくれ……。

和やかな雰囲気のうちに夕食を食べ終え、与えられた部屋へと戻る。そこで明日の準備をしようと銃に手をやるとふとヤマツカミの言葉が頭をよぎる。


――――倒し方が違うっていうか……


 しげしげと銃を見て、こんな物で奴らを倒そうとすることは間違っているのではないかという思いに捕らわれる。いや、でもなぜかこの前はクレイオにダメージを与えられていたようだったし……。迷いを振り切るように俺はそっと銃を床へと置いて、それから目を逸らす。明日、明日だ。その時何が起きるのかを見てからまた色々と考えよう。

 フカフカのベットの中、俺はエリア0に向かうまでに起きた様々な出来事を思いだした。短い時間であったけが、それは十分楽しいものだったといえるだろう。奴らを追ってマリアに会い、また謎が増えた。だけどマリアに出会えた。ヤマツカミの言葉はいつも謎めいていたけど、そこに真実が隠されている気がする。俺達は真実に、近づけている。


 一つの決着が明日、聖堂にて付こうとしている。


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