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俺には小さい頃によく遊んでいた友人がいた。小さい頃だけではない、つい最近まで……そう、仕事を始める前だから14歳くらいまで彼と遊んでいたはずだ。彼の名前は……そうだ正隆だ。俺は彼の事を小さいときから「まっちゃん」と呼んでいた。友人は他にも多くいた。だが一番同じ時間をすごしたのはまっちゃんだ。
なぜ今まで忘れていたのだろう……。かけがえのない友人を……。
今回ははっきり思い出したが既視感のあることは多くあった気がする。それもすぐに忘れてしまうのだが……。数少ない思い出せることは初めてジョンさんと出会ったときだ。この人とはどこかで会っている気がすると強烈な既視感を覚えた。ジョンさんはそんなことはないらしいので俺の勘違いだと思うことにしてたのだが……。まっちゃんとの再会で認めざるえなくなった。自分は、何かが、おかしい……。
しかし現実は無情にも時間が過ぎる。再会を喜ぶ時間も考える時間も与えてはくれない。
まっちゃんは俺と同い年だったはずだ。だが、実際の彼はどうみても14,5歳にしか見えなかった。
「これ持ってて!」
そういわれてまっちゃんから渡されたのは一丁の銃だ。
「待ってよ! こんなの使えないし! この人は!?」
「アルは一発殴られたくらいで死なないからほうっとけ!」
いやいや……さらに三階相当の高さから飛び降りてるんですけど……
「それに永志ももう引き返せないと思う……。トリガーを引けば弾はでる!どうせ当たっても奴らは死なない。足止めくらいにしかならないから気にせず撃て!!」
息をつく間もなく、まっちゃんは指示を出す。
「シコウは網の準備だ。二人でも作戦はやり遂げる」
「了解!!」
どうやらこの殴られた人がアルでもう一人の人がシコウというらしい。シコウは23歳くらいで結構ガッチリした体格で、髪も瞳も黒なのは俺とまっちゃんと同じだ。この三人でまっちゃんがリーダーなのか?
分からないことが多すぎる。引き返せない?撃たれても死なない? じゃあやっぱ弾は当たってたのかよ……。つーか死なないなら勝ちようなくね??
そんなことを考えている中、不思議な六人は屋根で戦っていたマッチョを先頭にして空中に浮きながら徐々に高度を落としていく。マッチョは地面に降りたが他五人は地面近くを浮いたままである。
地面に降りたマッチョな男がはじめて口を開く
「なぜ我らの邪魔をする?」
「人が殺されていくのをただ見ていろというのか!!」
シコウが怒気をはらんだ声で叫ぶ。
「殺しているのではない、一時的に排除しているだけだ。そしてそれが世界の意思でもある。お前らはごくわずかの例外でしかない」
「訳がわからん!! しかもお前らに殺された人は周りから忘れさられる! まるでそこに存在していなかったかのように!」
「忘れたとしても思い出す。世界は繰り返すのだから」
うん、シコウに同感だ。マッチョの言ってることは訳が分からない。この会話から分かったのは人の記憶に干渉する何かがこの世界にはあるということだ。
「やはりお前らは世界の脅威になりえる。今排除しておかなければならない」
そういうとマッチョはもの凄いスピードで走りよってくる。
また戦闘が始まった。まず六対三の時点で勝ち目がなさそうなのに(今はアルが倒れたから六対二か……でも残り五人は傍観しているので二対一か?)相手は不死身ときている。この不思議な六人は仲間ではないのだろうか? 浮いてる五人は加勢する気などまったくないようだ。
まっちゃんはマッチョの足を狙って発砲する。マッチョは不死身なのでよける必要がないのか放たれた銃弾はすべて足に命中した。
ただ多少のダメージはあるようだ。マッチョのスピードが明らかに遅くなり、まっちゃんの目の前で、止まった……。
どうやら足の回復に時間がかかるらしい。血は出ていない……やっぱこいつら人間じゃねー……。しかし撃ち抜かれた穴は空いている。その穴がみるみるふさがっていくのだ。
「今だ!!」
まっちゃんが叫ぶとシコウが準備してたらしい網をマッチョにかけた。さらにシコウが何かのスイッチを押す、と同時に男を包んだ網に電流が流れた。
「どうだ!?」
シコウが祈るように声をあげる。
しかしマッチョは何事もないように、いまだ電流が流れている網を払いのけ、まっちゃんに襲い掛かる。
倒れたまっちゃんに馬乗りになって首をしめにかかった。
「……化け物め!!」
まっちゃんが苦しそうに罵倒する……。
シコウが銃を発砲しようとするが、どうやら弾切れらしい……。
「くそ!!」
シコウが銃をすてまっちゃんに馬乗りになっているマッチョに殴りかかる。……が、マッチョは左手だけでまっちゃんの首をしめた状態のままアルの時と同じくシコウのみぞおちに強烈なパンチをくりだした。
次元が違う……。シコウは一撃で気絶してしまった。
マッチョはまたまっちゃんの首を絞めはじめる。
「うっ………………」
このままではまっちゃんが殺されてしまう……。せっかく再会した友人が……。そのことすらまた忘れてしまうのだろうか? そしてまたいつも通りの日常を過ごす……。ここで……ここで逃げたら何も変わらない。
そう思うと金縛りにあっていたらしい身体が動き、まっちゃんからもらった銃を男に向ける。
「や……やめろ! まっちゃんをはなせ!!」
マッチョが顔をこちらに向けた。その顔は表情と呼べるものがなく、どこか無機質じみていた。
「お前は……永志か……」
まっちゃんに呼ばれた時名前を聞かれたのだろうか? いや、その時は会話が聞こえる距離にはこの男はいなかったはずだ。
動揺のせいか声が上ずってしまう。
「な、なぜ俺の名前を知っているんだ!? お前は何者なんだ!?」
マッチョが答える。優しさというものは感じられないが、どこか僕を諭すような声音で。
「我か? 我はオーディン。永志よ、その銃を撃つな。お前はまだ引き返せる可能性が残っている、忘れることができるのだ。撃ってしまったらもう引き返せないぞ」
なるほど、このマッチョな男はオーディンというのか。そして逃げろ……と。しかし僕は真実のカケラを知ってしまった。自分の記憶が何かおかしいことを……
まっちゃんの言う通りだ。
もう、引き返せない。