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深層世界  作者: NAAA
第三章 
34/65

4

 パン屋のおじさん、おばさんに別れを告げ次の目的地へと向かう。次も何処かへ買い物に行くらしい。


「なあ、あのパン屋にいったのはいつぶりなんだ?」


 俺は車の中でマリアにそう聞いた。 


「え? それは……いつだったかしら……」


 マリアは考え込んでしまう。どうやらこの質問もマリアの曖昧な記憶に触れるものだったらしい。


「いや、覚えてないなら別にいい。それで、次はどこに行くんだ?」


 俺がそう聞くとマリアは考えることを止めて答える。


「あ、はい……次は夕食の買い物をしようと思って……」


 また俺が道を教えてもらうとマリアは丁寧に教えてくれる。マリアがこのまま違和感の正体を探ろうとするより道案内に集中した方がいいだろう。

 ほどなくして目的地に辿り着く。そこはショッピングモールのような所で色々な店が並んでいる。そこでマリアは豚肉やら玉ねぎ、人参、ジャガイモなどを買っていく。うん、この食材を見るに今日の夕食は……


「マリア、今日の夕食のメニューは……?」


 俺がそう聞くとマリアは大きな胸を反らして言う。


「カレーです!」


 まあ、そうだろうな。ここ最近はカレーを食べていなかったから楽しみではある。以前働いていた工場ではよく食堂で食べていたんだけな……。まあカレーはいつ食べてもうまいしな。世界にカレーが嫌いな人はいない!俺は勝手にそう思っている。


「あとカレーに必要な物は……」


 そう言ってマリアが手に取ったのはいかにも甘そうな真っ赤なリンゴだった。


「リンゴをカレーに入れるのか?」

「ええ、入れた方が甘味がでて美味しくなるんですよ」

「ふーん、そうなのか……」

「他に似も隠し味として入れるのはあるんですけど、あとは内緒です」


 マリアは唇に人差し指を当てて、いたずらをする時の子供のように無邪気に笑う。少し大人びたところがあるかとも思えば、こういう一面を見せてきたりもする。そのたびに俺はドキドキしてしまう。


「ああ、夕食を楽しみにしてるよ」


 俺がそう言うとマリアはまた小さく笑ってかた買い物を再開した。マリアは食材の他にも服やら小物やらを買っていて、荷物持ちとしての俺は大活躍だった。一通り買い物が終わったところでマリアに声をかける。


「そろそろ帰るか? それともまだ見たいところがあれば付き合うけど」


 マリアは少し考え込んで、答える。


「……じゃあ最後にもう一か所だけ付き合って頂けますか? とても綺麗な場所を知っているんです……」


 彼女は笑っていたが、なぜかその笑顔はどこか寂し気に見えた。


 ※


 マリアに案内されて車を進めるとある所でマリアが俺に言う。


「ここからは少し歩かないといけないので何処かに車を止めて貰えますか」


 幸いここは交通量も少なかったため道端に車を止める。それからマリアに続いて草が短く刈り揃えられた草原を進む。その道は少し傾斜があり、その頂上に一本の樹があった。


「あそこに見える樹がその場所です」


 なるほど、あそこがゴールか。そうと分かればマリアに案内してもらうのも終わりだ。


「先に行ってるぞ!」

「あ、ちょっと……!」


 俺はマリアを走って抜き去り、傾斜のある草原を登る。マリアも俺を追って走り始めた。俺が先に頂上まで登り切りそこに広がる景色を見る。


「おお、これは……」


 思わず息を飲んでその景色をみる。そこでマリアも俺に追いついた。


「……綺麗でしょう……もう一度この景色が見たかったの」

「ああ、確かに綺麗だ……」


 俺もマリアの言葉に同意する。こんな景色今まで見たことなかったな。

 マリアが最後に連れてきてほしいと言った場所。そこに広がっていたのは色とりどりの花が咲き誇る見渡す限りの花畑だった。


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