表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
深層世界  作者: NAAA
第三章 
32/65

2

 エリア0に向かう旅路は順調だった。出発の時から四日経過し、既にエリア9からエリア5に入っていた。予想していたより早いペースでここまで来ている。因みにここまで車の運転は全て俺が行っている。いや、俺だってずっと運転するのは疲れるから変わってほしかったよ? でも誰も変わろうかって言ってくれなかったからしょうがないじゃないか。別にマリアの定位置が助手席になったから隣を譲りたくなかったとか、そういう訳では全然ない。断じてない! 

 現在の時刻はちょうどお昼時で、少しお腹も空いてきたところだった。そう感じていたのは皆同じだったのか


「ねー、お腹空いてきたよー。何か食べたーい」


 とアルが言った。


「じゃあ適当な店で食べに行こう。皆何が食べたい?」


 俺がそう聞くと、「別になんでもいい」だの「永志に任せる」だの適当なことを言ってくる。まあそれならハンバーガとかでいいか、時間も取らないし、俺がその旨を伝えると皆了承してくれた。その時マリアだけ少しムッとした顔をしたのは気になったが、はて、何かしただろうか?

 店の中に入りそれぞれ思い思いの物を注文し、食べ始める。マリアがハンバーガーを半分くらい食べきったところではどこか不満げな様子で溜息をつく。


「はあ、そろそろ外食は飽きたわ……。何か手料理が食べたい……。ノイさんの料理が恋しい……」


 うーん、確かにここの所外食ばかりなので飽きるというのは俺も少し感じていたが……


「何か自分達で作るにしても場所がなあ……」


 俺がそう言うと、マリアはクワっと顔をあげ、その青い瞳で見つめてくる。


「それなら、料理を作れる場所に泊まればいいんですよ! そこら辺の賃貸住宅なんてどこも満杯になっているところなんてないわ! 空き家だってたくさんある! きっとお金さえ払えば一日だけでも泊めてくれるはずよ!」


 確かにマリアが言うのはもっともでこの世界には人が住める建物は山ほどあるのだが、それが全て使用されている訳ではなく、空き部屋や空き家が至る所にある。そういうちょっとしたところに俺は違和感を覚える。


「まあ、そうだな。ずっとホテルを転々とするのも飽きるものがある。自分で料理をつくり、出るときには掃除をして出ていくってのも偶にはいいのかもな」


 シコウもマリアに賛成のようだ。まあ、シコウは料理するの好きだもんな。


「マリアはさ……何でこの世界には空き家が空き部屋がこんなに多いか気にならないか?」


 俺がそう言うとマリアはキョトンとした顔で俺を見てくる。


「永志……」


 まっちゃんが俺の名前を呼び、注意するような目線を向けてくる。悪い、という意味を込めて俺も少し首を曲げる。マリアと行動を共にするに当たって、俺達の間で決めたルールがる。どうやらマリアは世界から忘れられていないということがノイさんの反応をみて分かったが、いつこちら側に引き込んでしまうか分からない。そこで俺達の体の成長が止まっているということ、またこの世界から生じる違和感についてはマリアには教えないというルールを設けた。俺がついマリアに聞いてしまったことをまっちゃんは窘めたのである。

 俺の言葉を聞いて、マリアが「確かに……どうしてかしら……」と呟いていた。俺は話題を反らそうとする。


「ほら、さっさと食って行こう。俺はもう食い終わったよ。今日はまだまだ先に行けるぞ」

「あ、そのことなんですけど……」


 マリアが考え込むのを止めて、俺に少し申し訳なさそうに言ってきた。


「あの、私エリア5には何度か行ったことがあって……挨拶したい人達がこの近くにいるの……。だから、今日はもう先に進まずにここで一泊するっていうのはダメかしら?」


 今日このまま進めば明日の昼頃にはエリア5の中心、つまりエリア0には到着できる。今日この場に留まったとしても明日の夜に着くことができるだろうし、大した差はないように思える。マリアのちょっとした我が儘を聞いてあげても俺はいいと思う。しかし、こういう決断を下す時はまっちゃんが決める。まっちゃんが今日もこのまま先に進むと言えば俺達はそれに従うだろう。なぜなら、まっちゃんがこのグループのリーダと皆口に出さずとも認めているからだ。誰よりもこの世界のことを知ろうとし、失っている家族の記憶を取り戻そうとしているまっちゃん。それ以外のことには興味を示さず、ただひたすらに真実を追い求め続けるその姿勢があるいは俺達に彼をリーダと認めさせているのかもしれない。

 俺はどうするかとまっちゃんに目線で問いかける。アルとシコウも俺と同じ様にまっちゃんのことを見ている。それを察してかまっちゃんは口を開いた。


「まあ、予想より早いペースで進めているし今日はここまで進めばいいんじゃないか? それに奴らが現れるとブレスレットに反応があっても十分に時間をおいてから二度目の合図がある。二度目の合図はまだ来ていないし、マリアに付き合ってやってもいいだろう」


 まっちゃんが了解してくれたと知ってマリアは目を輝かせてまっちゃんに笑顔を向ける。


「本当!? ありがとう、正隆君!」


 まっちゃんはそう言われて、眉の間に皺をよせ少し不機嫌そうな顔になる。どうやらマリアに君付けされるのが未だに気に入らないらしい。いや、俺からまっちゃんって言われるのとあまり変わらんだろうに。そういえばまっちゃんは最近はもう俺がまっちゃんと呼ぶのを注意しなくなった。どうやらもう諦めたらしい。諦めて正解。俺、直す気さらさらないし。


「じゃあ早く今晩泊まるところを決めて出かけたいわ! この近くにおいしいパン屋さんを知っているの。そこの主人もあいさつしたいし……。そうだ! 明日の朝食はそのパンにしましょう! 私がオススメを買ってきてあげるわ! あと、夕食は私に任せて! 腕によりをかけて作ってあげるから」


 マリアはうきうきとした様子でそう言って、残ったハンバーガーをペロリと平らげる。どうやら自由行動できるのがとても嬉しいらしい。夕食はマリアの手料理か、あんなお嬢様暮らしで料理が本当にできるのかは不安だったが、それ以上にマリアの手料理を食べられることの期待の方が大きかった。

 俺達は会計をすまし、店をでる。マリアの要望通り少し大きめの空き部屋があるマンションを探すとすぐに見つかった。マリアが寝る所ための部屋が付いていれば俺達はどこでもよかったのだが、最悪俺達は雑魚寝でも構わない。一日だけ使用できるかと管理人さんに聞くと笑って「お金さえ払ってくれれば一日と言わずにもっと使ってくれ」と快く了承してくれた。


 荷物を部屋におくと、それぞれが急遽できた自由時間を満喫するために行動を開始する。アルは「遊んでくるよー」と言っていた。こいつの場合遊ぶとはギャンブルを行って一稼ぎしてくるという意味なのだが……。そのお金を俺達も使わせてもらってるため、頑張ってこいと言う他ない。シコウはどうやら街をプラプラと散歩するようだ。まっちゃんは車でも移動で体が鈍るから少し走ってくるそうだ。マリアももうすでに出発しようとしている。さて、俺は何をして過ごそうか……。まっちゃんのランニングに付き合ったら、最近あまり時間が取れなくて読めていなかった本の続きでも読もうか。そんなことを考えていると、アルがハッと何かを思いついたような顔をしたあと、ニヤニヤ笑いながら俺に向かっていう。


「永志はマリアに着いて行ってあげなよ。女の子一人じゃ危ないし、何よりマリアは奴らに狙われてる身だしねー」


 その言葉に部屋から出ようとしていたマリアも振り返る。アルの言葉も一理あるので、特に反論はないが、こいつの場合明らかに余計なお世話を焼こうとしているのが透けて見えて、ムカつく。


「まあ、俺は別にいいけど……」


 俺がそう答えるとマリアは少しおどおどした様子で俺に向かって言った。


「永志さんと……。ま、まあ少し荷物も多くなりそうですし……。来ていただけるなら……」


 はいはい、荷物持ちですか……。どこにでも着いて行きますよ、お嬢様……。さて、じゃあ俺もさっさと仕度しなければ、と思ったがいつも持ち歩いているサイレンサー付きの銃くらいしか持っていくべきものはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ