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私が起きて一週間がたった。どうやらここにはおじいさんしかいないみたい。この建物はとても大きくて私が一人で歩いているとすぐに迷子になっちゃうの。でもその度におじいさんが迎えに来てくれるから大丈夫。
自分の名前も今ではちゃんと思い出したわ。私はエリス。エリスよ、なぜ忘れていたのかしら? それと、私にはママがいた。優しい優しい私のママ……。でも、ママはここにはいないみたい。昨日おじいさんに聞いてみたの。ママはどこって? そしたらおじいさんは「エリスのママは今働きに行ってるんじゃ。もう少ししたら帰ってくるよ」って言ってくれたけど、本当かしら? 早くママに会いたいな……。自分の名前とママのこと以外はよく覚えていないの。おじいさんは別に問題ないって言ってたけど……。
また今日もこの建物を探検しに行こうかしら? この建物はとても広いんだけど、何もなくて退屈なの。面白そうな部屋には鍵がかかっていておじいさんしか入れないようになってるし……。
私がそう思っていると、扉がガラガラって開いておじいさんが入ってきた。私が椅子に座って足をブラブラさせているのを見て、おじいさんは笑顔で話しかけてくる。
「エリス、暇なんじゃろ? 今日はいいところに連れて行ってやろう」
「うん、私、とっても退屈なの。ね、ね! どこに連れて行ってくれるの!?」
私がそう言うと、おじいさんは「着いてきなさい」と言って私をある部屋に案内したの。うきうきとして着いていくと、おじいさんはある部屋の前で止まった。へー、こんなところに部屋があるなんて知らなかったな。おじいさんが手をかざすと、それに反応して扉が開く。そこにある光景を見て、私は居ても立っても居られなくなり走ってなかに入る。その部屋は柔らかい光に包まれ、少しほこっりっぽい匂いがした。
「うわあ!すごーい! すごい、すごいたくさんあるわ!」
私がはしゃぐのを見て、おじいさんは嬉しそうに言った。
「おお、そんなに喜んでくれるとは思わなかったな。よし! この部屋はエリスの物にしよう。自由に使っていいからね」
おじいさんがそう言ってくれて、私はさらに嬉しくなった。すごい! すごい! これが全部、全部私のもの! すごいすごい!!
その部屋は私とって、退屈なこの世界に射した一筋の光に思えた。
――――おじいさんが私にくれた部屋、そこにあったのは壁一面に並べられたくさん本だった。
三章です。よろしくお願いします。




