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深層世界  作者: NAAA
第二章 
29/65

14

 俺は客室へと通された。しかし、この家は広いな……。まさに豪邸……。ノイさんはテキパキとお茶の準備をし、俺に差し出す。


「どうぞ……」

「あ、ありがとうございます……」

「…………」

「…………」


 は、早くも会話止まったー!! まずいな、どう切り出そう……。ずずっと俺がお茶を飲む音だけが広い客室から生じる唯一の音となる。ノイさんはお茶を出し終えると、机の脇に姿勢よく立ち、微動だにしない。彼女が入れてくれたお茶は紅茶で、とても美味しかった。……美味しかったのだが、この空気は全然美味しくなかった……。しばらくの間、マリア早く帰ってこないかなーと考えていたが、まだ時間がかかりそうなので意を決して口を開く。


「あ、あの、マリアさんは近々エリア0に向かわれるようで……」


 俺がそう口にすると、彼女は片方の眉をクイッとあげて俺に言った。


「マリア様からお聞きになったのですか……。確かにマリア様はお兄様に呼ばれてエリア0に向かうこととなっています。……それが何か?」

「い、いえ、でももし今回のようなことがあったらマリアさんも危ないんじゃないかなーと思いまして」

「心配は無用です。今度こそ私が責任を持ってマリア様をお守りいたします」

「そ、そうですか……」


 ダ、ダメだ……。この人絶対折れる気ないよ……。これはマリアが来るのを待って二人で説得しよう。この場は戦略的撤退だ。そう、これは戦術! 麻雀のベタオリと同じ! 最終的に勝つためにこの場はノイさんに譲ろうではないか……。そう心の中で言い訳して、残ったお茶を飲む。お茶がそこを尽きそうになった時、待ちに待ったマリアがやって来た。


「お待たせしました」


 そういうとマリアはすっと俺の隣の席に座る。すぐさまメイド長がマリアの分のお茶を入れる。そこで俺のお茶もなくなっているのに気づき注ぎ足してくれる。実に有能なメイドだ。

 マリアは目線で説得できたか、と聞いてきたが俺は小さく首を横に振る。どうやらマリアも俺一人で説得できるとは思っていなかったようでさしてがっかりした様子もない。


「ねえ、ノイさん。私、エリア0に行く予定を早めたいのだけれど……」

「それは構いませんが……いつ出発になさいますか?」

「今日よ、もう準備はできているわ」

「それはずいぶんと急でございますね……。せめてもう一日待って頂けませんか?」


 マリアは首を横に振りながらその提案を拒否する。


「いいえ、今日、出発するわ。だって永志さんとその仲間の方達に守ってもらうんだから彼らの予定に合わせないと」

「……永志様に守っていただくと? それでしたら私が責任をもってマリア様をお守りいたしますわ。もしそれでも不安でしたらもっと多くのメイドを連れて行きますし、護衛だって雇ます。つい先日あったばかりの方にマリア様を任せるなど……」


 ノイさんはなおも引き下がらない。マリアは困ったように笑うが、ピシャリと言い放った。


「いいえ、ノイさん達では私を守りぬくことはできないわ」


 マリアがなぜそう言い切れるのか分からなかったのかノイさんは続きを促すようにマリアを見つめてくる。


「ノイさん、昨日私を攫おうとしたのはとんでもない人達だったわ……。とても普通の方達では戦うことすらできないほどの……」


 そこで言葉を区切って俺を見てきた。うん? 何かな? 説得頑張って、マリアさん!


「永志さん、ちょっとジャンプして見せてくれるかしら、天井に着くくらいでいいから」


 うん? ジャンプしろだって? まあこれくらいの高さの天井なら身体能力が上がっている俺なら余裕で届くが……


「まあ、いいけど……」


 俺は怪訝に思いながらも了承し、客室の少し開けているところまで行ってジャンプした。トンという軽い音をたてて飛び上がる。天井に頭が当たりそうになったので慌てて右手で天井を押し返す。そしてまたトンという音を立てて俺は床に降り立った。


「なっ…………!」


 声をした方を見て見るとノイさんが絶句して驚いていた。


「分かった、ノイさん。彼らはこれほどのことができるの。でも、昨日私を襲ったの人達はそれ以上だった……。彼らが私をエリア0まで送ってくれると言っているのよ、断る手がある?」


 どうやらマリアは俺の常人とはかけ離れた身体能力をかいま見せることでノイさんを説得しようとしたらしい。ノイさんはしばらく放心状態だったが、首をブンブンと数回ふり、気を取り直してマリアに向かっていた。


「永志様が尋常ならざる方だということは理解できました。確かにこれほど適任の方もいないでしょう……。しかし、だからこそその力がマリア様に向けられたらと思うと怖い……。やはりマリア様をお任せするには……」


 うわー……ノイさん頑固だな……。まあそれだけマリアのことを思っているってことなんだろうけど……。マリアは溜息をつき、「もうこれしか方法は……」と呟いた。うん? 他に何か方法があるのだろうか? そう思ってマリアも見ていると上目使いで俺を覗きこんでいたマリアと目が合う。少しほほが赤くなっていてなんだか色っぽい……。マリアは恥ずかしそうに俺から目を反らし、ノイさんの方へ向き直る。


「ノイさん、今までの話は全て建前よ!」


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