12
朝目覚めて食堂に行くと、もう既にアル以外は起きているようだった。おはようとあいさつをすると、いつもは男ばかりの低い声でぶっきらぼうに返されるのだが、今日は違う。
「おはよう永志。私も今起きたところよ。昨日屋敷に今日の朝帰ると電話したらノイさん……私の家のメイド長がカンカンに怒っていて……。今から帰るのが怖いわ……」
そんなことをマリアは言ってきた。いや、送り返すの俺なんだけど……。不安になるようなことを言うなよ……。
「そ、そうか……。俺も少し腹に何か入れたい。その後すぐに屋敷に向かおう」
俺は少ししどろもどろしながらそう返事をして、パンとミルクを急いで腹の中に入れる。早くしないとマリアが言うメイド長とやらの怒りが膨らみそうだからな。
俺が朝食を食べているとまっちゃんが深刻そうな顔で俺に話しかけてきた。
「永志、昨日はむやみに移動しない方が言いと言ったが、どうやらそうでもないようだ」
「え? どういうことだよ?」
話の意図が掴めず俺が問い返すとまっちゃんはマリアの方をチラッとみてから言う。
「ブレスレットに反応があった。俺達が向かうのは……エリア0だ」
なんだと……マリアはエリア0に向かう予定があると言う。まるでそれに呼応するかのようにブレスレットが反応した。この反応はマリアが関わっているとみた方がいいだろう。
まっちゃんも同じ考えなのか、俺にこう提案してきた。
「そこでだ、マリアとも今話していたのだが、俺達がエリア0に送り届けた方がいいと思ってな。もしクレイオがエリア0に向かうマリアを狙うつもりならその方がいいだろう」
まあ、筋は通っているがマリアはそれでいいのかと目線で問いかけると、それを察して彼女は答えてくれる。
「私もそうして頂けるのならありがたいのですけど……。人ではないような者に襲われたと言っても誰も信じてはくれないでしょうし……。でも、ノイさんが許してくれるかどうか……」
「もう、このままエリア0に向かっちゃまずいのか? そのノイさんとかっていうメイド長とやらに会わずによ」
マリアの言葉を受け、まっちゃんがめんどくさそうに言う。
「それはできません! ノイさんは厳しい方ですが私にとてもよくしてくれます。一言もあいさつもなしに去るなんて嫌です!」
マリアの言葉を聞いてはあ、と溜息をついた後まっちゃんは俺に向かって言う。
「と、いうことだ。永志、なんとかしろ。あいさつが済んだらすぐに移動するぞ」
うわ、人に丸投げかよ……。ひでー……。まあ昨日俺も了解しちゃったしな……。そう思いつつも、実際はマリアともう少し一緒にいられると聞いてほっとしていた。もう少し、そうエリア0に着くまでは一緒にいることができるだろう。俺とマリアが食堂を出ようとするとまっちゃんが俺にだけ聞こえる声で付け足してきた。
「昨日も言ったが、マリアも世界から忘れられている可能性がある。その場合は屋敷の人達をうまくはぐらかしてこいよ……」
「まあ、なんとか頑張ってみるよ……。じゃあ、行こうか」
少し先を進んでいて何事かと立ち止まり俺とまっちゃんを見ているマリアに向かって言う。
「ええ、我が儘を聞いてくれてありがとう」
マリアはそう礼を言った。きちんとお礼や挨拶ができるいい子だ。そして度胸も据わっている。俺よりは三歳程年下だろうに、精神的な部分はとても大人びたものがある。といっても見た目は全くの同年代なのだが。
二人して俺達の車まで移動する。二人っきりになるのはこれが初めてだ。そう意識してしまうと妙に緊張してしまい、移動中の車の中ではあまり会話が弾まなかった。




