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部屋の中が静まり返る。なぜヘラクレスは俺達に向かって頼むなんて言ったのだろうか。それが少女のことだとは推測が付くが、どうして敵対している俺達にそんなことを言う必要があるのか。ヘラクレスとは対照的にクレイオは少女のことを再び狙うと言っていた。これまで奴らが誰かにこれほどまで執着したことはなかった。なぜ、今回は違うんだ? マリアと呼ばれた少女が“指導者”と呼ばれていたことに関係があるのか? 分からない……。奴らに関わると謎が減るどころか増えるばかりだ。俺達は本当に真実に近づけているのだろうか……。
静まり返った部屋でいち早く状況を把握しようとしたのは少女だった。
「あなた達はなんなんですか!? 私を守ってくれたようにも見えましたが……。それにしたっていきなり人の部屋に入ってきて剣を振り回したり、発砲したり……。ひどいではありませんか!」
思い出したように怒り始める少女を、俺は慌てて宥めようとする。
「えーっと……マリアって言うんだよね。少し落ち着いて……ね?」
「これが落ち着いていられますか!!」
怒鳴られてしまった……。いや、ごもっともです……はい……。
「そんなに怒んないで、ね? かわいい顔が台無しだよ? 笑顔、笑顔! 絶対君は笑顔の
方数段かわいい!」
そう冗談めかして、わりと本音を言うと少女は少しの間ポカンとしてから、みるみる顔を真っ赤にしていく。
「そ、そんなことは聞いてません!」
少し場の雰囲気が和んだところで、アルも少女を見て言う。
「それにしても大きいねー」
マリアはきょとんとした顔で首をかしげる。
「え? この部屋のことですか? 確かに一般的な家よりは大きいと思いますが……」
アルはマリアを見ながら、いや、正確には白いワンピースのようなゆったりとしたパジャマでも隠しきれていないその大きな胸見て……。
「いや、まあ部屋も大きいけど、君のおっぱ……フゴッ!……」
俺が目にも留まらぬ速さで動き、アルの口を抑える。このバカアルめ……。言っていいことと悪いことがあるのが分からんのか……。確かに目がいってしまうけれど!
「そ、そうそうとても立派な部屋だね! それなのにこんなに荒らしちゃってごめんね!」
俺が慌てて取り繕うと、マリアは少し怪訝そうな顔をしたが、そのことには突っ込まずに答えてくれた。
「いえ、それは私を守ってくれようとしてのことでしょうし、構わないのですが……。それよりきちんと説明してもらいたいわ」
いや、もっともな意見だ。俺達もマリアに聞きたいことは山ほどある。
「そうだな……えっと何から説明すればいいのかな……でもあんまり深入りさせても……」
俺達に深く関わってしまうと世界から存在を忘れさられてしまう危険がある。その明確なラインを見極めるのは非常に難しいのだが……。
そんなことを考えていると、屋敷全体が騒がしくなってきた。まずい! 屋敷の人に気付かれたか!? どうする!? マリアを人質に……いやそんなことしたら俺達の印象が悪くなってマリアに何も聞けないかもしれないし……。ああ、もう!こんな時に一番いい案を出してくれるのは……。
そうだ! アルだ! こういう時こそあいつは役に立つ! 逆にこういう時に以外は役に立たない! アルはどこに行ったんだと思い辺りを探すと、いまだに俺の腕のなかでフガフガ言っていた。すぐさまその腕を離して問いかける。
「アル! どうすればいい!? 屋敷の人達に気付かれたみたいだ!」
アルはふうっと息を吐いてから俺に向き直りニヤリと笑って言った。
「気付かれちゃったならしょうがない! マリアを連れて逃げるしかないね!!」




