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一瞬の間俺達は奴らの神秘的な姿に見惚れてしまう。一番早く我に返ったのはまっちゃんだった。
「追いかけるぞ、奴らが誰を狙うか分かりしだい襲撃する」
俺はその言葉に頷いたが、いつもとは違うある点について指摘せずにはいられなかった。
「なあ……なんで隻眼の男がいるんだ? ここ最近はクレイオとあの銀髪の女だけだったじゃないか……」
まっちゃん、アル、シコウの三人で行動していた時は奴らは六人揃って現れていたらしいのだが、オーディンを倒した時から現れるのはクレイオと銀髪の女の二人だけということが多かった。稀に、白い衣装をまとった老人、9,10歳くらいの子供も現れてはいたのだが、この二人は現れても傍観しているだけだった。俺達と戦闘を行うのはクレイオ。そして銀髪の髪の女の手に触れられると人は死んだように眠り、世界からその存在を忘れ去られる。クレイオと戦闘を行いながら、銀髪の女が手を振れる前に狙われた人を救出するというのが今までのパターンだった。しかし今日は隻眼の男がいる。この男は三年間の間に現れたことは一度としてなかったのだ。今夜は何かいつもと違う気がする……。そう思っていたのはきっと俺だけではないだろう。
「……そんなことは考えても分からない。いざとなったらクレイオと隻眼の男の二人と戦うつもりでいろ」
まっちゃんがそう答え、俺は小さく頷く。奴らを追いかけていくと屋敷の二階、ベランダのある部屋の前で止まった。カーテンが閉められていたので中の様子を覗うことはできないが、まだ就寝するには早い時間だからだろう、やわらかな明かりがともっていた。
奴らは空中を滑るように移動し、ベランダに降り立った。クレイオが右手をあげそっと窓に触れるとカッチャっと音がして鍵が開いたようだ。その窓から奴ら三人が音もなく入っていった。奴らが二階から入り込もうとするのは俺達にとって幸運だったかもしれない。少なくとも屋敷全体が大騒ぎになり、狙われた人の救出などできなくなる、ということは避けられそうだ。
「まずい! あの部屋にいる人が今回狙われるのかもしれない! シコウ!」
まっちゃんがそう叫ぶとシコウは心得たとばかりにベランダのふもとまで走り両手を低く構える。まっちゃんはシコウに向かって数メートルの助走をつけてからジャンプする。シコウは両手でまっちゃんの片足を受け止め思いっきり上へと放り投げる。見事まっちゃんはベランダの淵につかまり後はよじ登るだけだ。ベランダにたどり着いたまっちゃんはすぐに部屋の中へと入っていってしまう。
「キャアッ!」と女性の短い悲鳴が開けたベランダの窓から聞こえてきた。入ってきたまっちゃんと奴らの存在に気付いたのだろう。
「シコウ!」
俺もまっちゃんと同じ方法でベランダまで上がろうと思い、シコウに呼びかける。シコウは「来い!」と言って両手を低く構えてくれた。シコウに向かって走っていきタイミングよくジャンプする。足からシコウの力を受け、グンっと加速するとベランダはもうすぐそこだった。なんとか淵につかまり後は腕力で登るだけだ。急いでよじ登りベランダに降り立った。
「まっちゃん!」
そう叫びながらカーテンを払いのけて部屋の中へと入る。部屋の暖かな光が夜の闇に慣れた目には少し眩しく感じられた。屋敷の大きさに比例するように大きい部屋はきちんと整理されていたが、どこか生活感がにじみ出ていた。少し甘い匂いが鼻をくすぐり、この部屋は女性が使っているものだと実感する。
そんな部屋には似つかわしくない光景がそこには広がっていた。つまり、既に抜刀して奴らと対峙しているまっちゃん。そしてベットの上には肩を震わせ、目を見開いて驚いている少女がいた。




