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雨が降っている音がしたのだ。いや、実際には屋根上で音が連続的になっているだけだったが俺の想像力では雨くらいしか思いつかなかった。
「あれ? なんか上から聞こえない? 雨かな?」
「あー確かに聞こえるかも、お前このうるさい工場の中でよくきづくな」
俺はわりと耳はいいほうだ。工場は確かに機械音やら話し声やらでうるさいのでいつもなら多少の物音は気にならない。
「いや、でもさ、今日の天気予報で降水確率0%って言ってたんだよね」
「へーお前天気予報とか見るんだ。雨降ってってもチャリできたりするのに。まあ天気予報はあてにならないだろ」
「今日はたまたま見たんだよ。なんか気になるから外行って見てくる」
「もの好きなやつだなー。俺はここで休んでるから何の音だったのか後で教えて」
「オッケー」
そう言ってコンベアー沿いの道を通り外へと向かう。
過去に戻れたとして自分に忠告できるのなら、「食堂で寝てしまえ、外には出るな!」と俺は言うだろうか?……多分言わないだろう。何かをしなければ、何かを変えなくてはと心のどこかで思っていたのは真実だったから……そして変えるべき何かが分かってしまったから……。
いつもなら見ない天気予報をたまたま見る。そしていつもなら気にならない物音を気にする。これは偶然だったのか、運命だったのか。とにもかくにも俺は外へ出た。
「なんだ、やっぱり雨は降ってないか。じゃあこの音はいったい……」
数歩進んで上を見上げる。この瞬間俺の人生は決まったことは確かだ。