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昼食を食べ終わり、今夜行われるであろう戦闘の準備をする。基本俺は三年前にオーディンとの戦闘の時つかったような小型の銃を使っている。しかし、この三年間、銃による攻撃でクレイオにダメージを与えることはできていなかった。シコウやまっちゃんにはちょっとした体術も習っていたが、自分でも驚くほどに飲み込みが早かった。なぜかというと、この三年で俺もまちゃんやシコウ、アルと同様に身体能力があがったからだ。屋根から落ちても死なないし、多少の怪我は平気。実に便利な体だ。体術に関してはずば抜けた格闘センスを持つシコウにはかなわないものの、まっちゃんにはそろそろ並べるくらいまで上達していた。
あらかたの準備を終えると、満腹感も手伝ってか眠くなってきた。夕方までは時間がある。少し昼寝でもするとしよう。ケータイのアラームを一時間後にセットし、俺はベットへと潜り込んだ。
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リリリリリリリリリリリ
ケータイのアラームが鳴って目覚める。ベットの上で伸びをしてから起き上がる。うん、眠気はすっかりとれたな。まだ出発まで時間があるが、外にでて少し体を動かしながら他の三人でも待っていよう。そう思いホテル前の広場に出てみると、すでにまっちゃんが車を用意してその前で木刀を振っていた。
三年の間にまっちゃんは剣を使うようになっていた。銃で撃ってもダメージを与えられないなら剣の方がいいのでは、と考えたらしい。剣を使うと簡単に言っても、実際にはとても難しい。下手に扱えば、自分が怪我をしてしまう可能性がある。考えただけでそんなものを振り回せるのかと思ったが、まっちゃんは剣を見事に扱ってみせた。しかし、剣による攻撃も奴らにはきかなかったのだが……。試しに俺も剣を使ってみたのだが、全く戦力にならなそうだ。剣を振るというより、剣に振られているといった方が正しいくらいだった。まっちゃんほどうまく剣を扱えないにしても少しくらい使えるようにと俺も時間がある時は素振りくらいはするようにしている。
以前一度まっちゃんに聞いてみたことがある。
「なあ、まっちゃん。なんでそんなにうまく剣を振れるんだよ。誰かに習っていたのか?」
まっちゃんは不思議そうな顔をして答えた。
「いや、そんなことはないんだが……。妙にしっくりくることは確かだ。記憶が曖昧だから確かなことは言えないけど、もしかしたら俺は以前にも剣を握っていたのかもしれないな」
確かにまっちゃんが剣を振っている姿にはなんとなく俺も既視感を覚える。俺がまだ小さい頃に何度かまっちゃんが剣を振っている姿を見ているのかもしれない。
今もどこか懐かしいような気持ちになって見ていると、まっちゃんの方も俺に気付いたようで俺に声をかけてくる。
「おお、永志も来たか。まだ少し時間があるけど、どうしたんだ?」
「いや、少し体を動かしておこうと思ってさ」
するとまっちゃんはニヤリとして俺に言った。
「そういうことなら丁度いい、素振りには飽きてきたところだ。少し手合わせをしよう」
「まあ、いいけどさ……。俺に怪我させんなよ……」
「分かってる分かってる」
未だにまっちゃんと手合わせして俺が勝ったことはない。まっちゃんは15歳の時とかわっていないから、体格ではこちらが有利なはずなのだが……。
「じゃあ俺も今は剣を使うよ、一本木刀を貸してくれ」
まっちゃんは木刀を投げてよこす。
「どれだけ上達したか見てやるよ。かかってきなさい」
上から目線がなんともムカつくが事実なので言い返さない。そのかわり剣を空中でつかんだと同時にまっちゃんに切りかかる。実力差がある限り、不意打ちでもなんでもして勝ちをとりにいくべきだ。もっともまっちゃんは少し反応が遅れたくらいで簡単に俺の攻撃を受け流し、逆に勢い余って体勢をを崩している俺の喉元に木刀をあてた。
「はい、まず俺の一勝」
「……もう一回だ」
そんなことを繰り返していたが、結局俺はまっちゃんから一勝も奪うことができなかった。まあ、当初の目的である体をほぐすということはできたのでよしとしよう。そろそろ出発する時間に近づいてきたので手合わせをやめる。しかし未だにシコウとアルは姿を現さない。全く、何しているんだあいつらは……。そう思ったのはまっちゃんも同じだったのか、ホテルの入り口の方を見て呟く。
「あいつら遅いな。そろそろ出発だっていうのに……。まさか寝てるんじゃないだろうな?」
「俺が叩き起こしてこようか?」
「そうだな、思いっきり引っ叩いてきてくれ」
「そうする、まっちゃんにやらされたって言うよ」
俺が立ち上がり、アルとシコウを呼びに行こうとしたところで、シコウがアルを肩に担いでホテルから出てきた。
肩に担がれたアルがなにかムニャムニャと言っている。
「うーん……。あと五分寝かせてよ……。ねーママ……。いや、僕ママのこと全然覚えてないけど」
「ぐずるから、無理やり連れてきた」
いや、ぐずるってシコウさん……。赤ちゃんじゃないんだから……。しかも一人でボケて一人でツッこんでるよその子……。
「重いから交代してくれ」
そういってシコウは俺に向かってアルを投げてきた。文字通りボールを投げるかのごとく。いやー、身体能力上がるって便利だね!
「そうそう……。交代すれば僕もあと少し寝れる…………って! え! 空中! 飛んでる! 僕、飛んでるよ永志! かわいい僕を受け止めて!」
俺はニコリと笑ってシコウに礼を言う。
「ありがとうシコウ。バカアルが面倒かけたみたいで。そしてアル……」
すっと俺に向かって飛んでくるアルの軌道から逃れる。
「断固拒否する」
「……えっ! ちょっ! まっ…………」
アルがドンという音をたててついさっきまで俺がいた後ろへと落下した。「いたーい! 怪我したらどうすんのさー!」とアルが叫んでいるが、落ちる間際空中で姿勢をかえてきちんと受け身を取っていることを俺は知っている。全く、アルは馬鹿なんだか天才なんだか……。
まっちゃんが大きく溜息をついて俺達に告げる。
「……遊んでないでそろそろ出発するぞ。車に乗れ」
そういわれ素直に他三人は車に乗り込む。いや、アルはまっちゃんにケツを蹴られてうむを言わさず車に乗せられていただけだが……。
正直アルの存在は有難い。緊張でガチガチになってしまうような場面でも空気を和らげてくれる。本人が意図してそうしているかは疑問だが……。
全員が車に乗り込んだのを確認すると最後にまっちゃんは運転席に乗り込む。この三年で俺も車の運転はできるようになっていたのだが、ブレスレッドを持っているのがまっちゃんな以上、場所はまっちゃんにしか分からない。だったらまっちゃんが運転した方が早いというわけだ。車の扉を閉め、まっちゃんは俺達に声をかける。
「出発だ。気を引き締めていこう」
「「了解」」
そう俺とシコウが答えると、まっちゃんは車を走り出させた。アルはもう既に元気を取り戻し「まっさん! 安全運転よろしくー!」と言ってはしゃいでいた。




