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深層世界  作者: NAAA
第二章 
18/65

3

「やった! また僕が一位だね! 一位の人はお小遣いをもらえるんだよねー?」


 それは俺達が四人でできる暇つぶしとして三年前から重宝している麻雀をしている時だった。俺も三年の間にまっちゃんとシコウと競るくらいには上達していたが、やはり毎度のように一位を取るのはアルだった。この時もアルが一位を取ったのだが、いつもと違うのは一位を取った人にお小遣いをもらえるというルールを付けてやっていた。お金の管理はシコウと俺とで行うようになっている。しかし、アルが勝つと薄々分かってはいてもこんなルールを付けたくなるものだ。


「クソッ! おもしろくねー。またアルが一位かよ。アル、その金でギャンブルでもしてこいよ。もしかしたら何倍にもなるかもしれねーぞ」


 まっちゃんがこんなことを言った。負け惜しみだったのか、冗談だったのか、今となっては分からない。しかしアルはこの言葉を真に受けた。


「なるほど! さすがだよ、まっさん。じゃあちょっと行ってくるね!」


 アルはそのセリフを最後にその時俺達が使っていた基地を飛び出して行った。俺達は制止する暇さえなかった。


「ほんとに行っちゃったよ…………」


 俺の呟きにはまっちゃんもシコウも答えてはくれなかった。

 アルはいったいどこで何をしていたのかは分からない。なぜか誰も聞かなかった。アルが戻って来たのは数時間がたった頃で俺達は夕食の準備をしていた。(正確には俺とシコウの二人でだ)


「ただいまー。 凄いね、ギャンブルって! 楽しいし短時間でお金が増える! 最初はルールが分からなかったのも多かったけど…………ルールが分かれば余裕だね。よゆー」


 アルが握りしめてたのは持って行った時の額の10倍は超えているであろう札束…………


「そういえばシコウの貯金もなくなるところでしょ? これからは僕が遊んで稼いでくるから心配しないでねっ!」


 この時から僕達は金銭面で苦労することがなくなった。アルにお金を渡せば必ず増やして帰ってくるのだから…………。今まで減らして帰って来たことは一度たりともない。最低2倍にはして帰ってくる。


 そして俺達はアルにお金のことに関してだけは口だしできなくなった…………。

 認めたくはないがアルは頭もいいんだろう。麻雀で強さのこつを聞いたとき


「麻雀なんて確率論と統計でなんとかなるじゃん。あとは期待値。僕は運もいいけどねー」


 こんなことを言っていた。最後の運の要素を持ち出されたのはムカついたが……。きっと俺が一位を取れず、二位や三位ばっかりなのは運が悪いからだな。四位が少ないのは実力。うん、きっとそうだ、そうに違いない……。ちなみに奴らとの戦闘時の作戦なんかもアルの案が多く採用されている。メチャクチャな作戦に見えるが、解説されると論理だったしっかりしたもので感心してしまう。



 そんなわけでお金に苦労しなくなった俺達は、奴らとの関わりがない日は暇なのである。この時も同じ部屋にいるものの四人で思い思いの行動を取っていたわけだ。三年前までは廃ビルなんかを使って節約していたが、今ではホテルに泊まることができてるほどだ。

 ここでまっちゃんがアルが主導権を握ってしまう会話を終わらせようとしてか、話題を変えようとする。


「そういえば腹が減った。久しぶりにシコウが作ったチャーハン食いたいな」

「そうだね。あのチャーハンは絶品だ」


 アルに調子づかれるのも嫌なので話題の変更には協力しよう。しかし、まっちゃんとアルはいつも腹減ったとは言うくせに食事の手伝いはまったくしない。困ったものだ。


「そういえば最近は自炊しなくても金があるから外食することも増えたからな。最近にいたってはホテル暮らしだ」

「あ! 僕はシコウが作った麻婆豆腐を食べたい! シコウよろしく!」


 シコウとアルものってきた。シコウの言うとおり最近はホテルを基地代わりにしていたのでシコウの料理を食べていなかった。今はエリア9のとあるホテルの一室に集まっているのだが、そんな話を聞くと確かにお腹が空いてきた。シコウの料理はどれも美味しいが、特にチャーハンや麻婆豆腐などの中華料理が飛び抜けている。へたな店で食べるより美味い。


「じゃあ今日は久しぶりに俺が作るか。厨房もお得意様である俺達の頼みなら聞いてくれるだろう」


 そうと決まれば話は早い。四人揃って階段を降りていき、一階の厨房へと入る。管理人さんに厨房を使う旨を一言声をかけると快く承諾してくれた。

 そこでシコウが戸惑ったように振り替えり、一言かける。


「……なんでお前らも着いてくるんだ? 別に俺一人でいい。 食堂で待ってろ」


 なるほど。確かに料理するのはシコウ一人で十分だろう。もっともな意見である。まあ、ぶっちゃけ暇だから、手伝いがてらシコウの鮮やかに料理する様でも見ようとおもっていたのだが。そう思い、俺が答える


「いや、俺も手伝おうかと思ってさ」


 まっちゃんが答える。


「暇だから」


 アルが答える。


「ちょっと邪魔しに……」


 おい! あとの二人! 正直に言ったらダメだろう! こういう時にも建前ってものがあってだな……。というかアルにいたってはもはや建前うんぬんの話ですらない。

 案の定シコウに目をやると、肩をわずかにふるわせて今にも爆発寸前といったところだ。怒気をめいっぱいはらんだ声音でシコウが言う。


「永志以外は出ていけ……」


 まっちゃんとアルが慌てたように取り繕う。


「いやいや、俺も何かの役に立つかもしれないぜ! ……味見とか?」


 いや、味見係とかいらないし。却下。


「そうそう! 別に僕だって表立って邪魔なんかしないよ! こっそりばれないように、つまみ食いしようとしてただけだって……」


 却下その2。もう只のバカ。


 シコウがまっちゃんとアルを正面から睨みつけてもう一度言う。


「……出ていけ」


 こ、恐い……。恐いっす、シコウさん。こういう時のシコウは本当に恐い。なんというか、弟がいたせいか、叱ることに慣れていて、迫力がある。

 アルとまっちゃんは顔を引きつらせながら、後ずさりしていく。


「わ、分かった! だから、少し落ち着こう、シコウ……」

「こ、殺さないで! まっさんならいいから!」


 そう言い残し、二人は厨房の扉を乱暴に開け、走り出ていこうとする。というかアルの言動がいちいちひどいな、簡単にまっちゃんを捨てやがったよ……。すると、厨房から数歩出たところくらいでまっちゃんが立ち止まった。なんだよ、まだなんかあるのかよ……。少々めんどくさくなりながらもまっちゃんの動向を見守る。それはシコウとアルも同様だったのかいぶかしげにまっちゃんの方を見ていた。

 数秒の静寂が場を支配する。まっちゃんは全員の顔を一目みてからさっきまでとはうって変わって真剣な表情をしていった。


「きた、合図だ。今夜あたり……来るぞ……」


 その言葉を聞いて、全員の顔が引き締まる。ここ数年で何度もまっちゃんから告げられるていた奴らが来る合図。まっちゃんの左手首に付けられているブレスレッドはまっちゃんにのみ奴らの現れる大体の時間、場所を知らせてくれる。それが外れたことは今までで一度だってなかった。その合図を待っていたのか、もう来ないでほしいと思っているのかは正直分からない。でも、一度来ると分かったなら俺達もそこに行くだけだ。それが俺達のした選択だから……。


「昼食をとったら各自夕方まで休んでろ。夜までに準備を整えること。場所はここから車で2、30分のところだ。……準備不足がないように気を付けろ」

「「了解」」

「はーい」


 俺とシコウとアルの声が重なり、返事をする。今回は奴らに狙われる人を助けられるだろうか? そんな不安が俺の心をかすめる。いや、そんなことを考えてもしょうがない。精一杯、がむしゃらに立ち向かうほか方法はないのだから。


 シコウが麻婆豆腐を作ってくれた。その間に俺は付け合わせのサラダを作っておく。できた昼食を食堂へと持っていき、四人で食べ始める。シコウが作ってくれた麻婆豆腐はやはり絶品で文句のつけようがなかったが、それを口に運ぶ四人の言葉数は少なかった。


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