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そして平凡な日常が終わったのは俺がビルについてから一か月がたったころだった。その日、まっちゃんがいきなり皆を集めて話しをはじめた。
「皆聞いてくれ。奴らがエリア3に現れるみたいだ」
どういうことだろう。今までは現れる場所なんて分からないと言っていたではないか。そのままこの疑問を口に出す。
「は? なんでそんなこと分かるんだよ?」
「これが教えてくれた」
といってまっちゃんが示したのは自分の手首、そこに付けてあるブレスレットだ。改めてこのブレスレットを見てみても銀色で何も模様もない、ごくありふれたものである。
確かにクレイオはこのブレスレットが私たちの居場所を教えるって言っていたが何か不思議な力があるとは信じていなかった。
「どうやってそんなことが分かったの?」
アルも興味津々と言った風に聞いている。
「うまく言えないんだが……なぜか奴らがそのエリアに現れると分かるんだ。ただそれがいつかは分からない。信号待ちで青になることは分かる、でも正確な時間、場所は分からない……。そんな感じだ」
分かるような、分からないような……。
「奴らに関わる他真実は分からないようだからな。人が殺されるのも黙って見ていられない……。俺達はエリア3に向かう。出発は明日だ」
明日!? なんだっていきなり……明日なんて早すぎる……
「明日って急すぎるよ! もう少しのんびりしても……準備だってあるし……」
まっちゃんは毅然とした様子で言い返してくる。
「永志……。俺達に準備なんてほぼない。持っていくのは自分の体くらいだ。のんびりなんてしてられない」
「でも……」
「永志は未練でもあるのか?」
「………………」
そうかもしれない……。この一か月で自分の気持ちを整理できたと思っていた。
「ちゃんと心残りなんかなくしていった方いいよー。僕はよくわかんないけどー」
「ここにいるのはひとり者だけだからだったからな。俺は弟がいなくなって心残りなどなかった。永志のように家族がいるのはこの世界では珍しい」
アルとシコウも薦めてくる。
そういえば家族がいるのは周りで僕だけだったかもしれない。いるとしても兄弟だけとか片親だけなど、圧倒的に多いのは一人身の人だ。
「そうだね、そうかもしれない。まだ振り切れていないな。……ちょっと出かけてくる」
そう言って俺はビルの扉を閉めることも忘れて走り抜けた。
「おい! 待て、永志!」
まっちゃんが追いかけてくる。勢いで飛び出したが移動する手段がないことに気づく……。
「まっちゃん……車だして……。俺の家まで頼む…………」
少し気まずい思いをしながらまっちゃんに頼み込む。
「ああ、それはいいが……お前を家族に会わせる訳にはいかない」
「分かってる」
それでもせめて最後に一目だけでも……。そんな思いを胸に、俺は一か月ぶりの我が家へ向かった。




