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「……弟が殺されたんだ。たった一人の家族だった」
「……それはあの6人にってこと?」
「そうだ。俺は、何もしてやれなっかた。助けてやることができなかったんだ」
シコウは悔しそうに、うつむきながらテーブルの上におかれた手を震わせていた。
「殺されたと言っても無惨に殺されたわけじゃない。あいつらの一人、女の姿をしたやつだ。そいつが弟に手を触れたと思ったらその瞬間だ、その瞬間に弟は光となって消えたんだ」
「それって……」
オーディンの最期の姿が鮮明に思い出される。
この世界でも人は死ぬ……が
「正隆から話は聞いた。オーディンも同じ様な最期だったらしいな」
「……そうなんだ。シコウはあの6人についてどう思ってる? 俺は何とも言えないけど……ただ人を殺していくようには見えなかった。なにか明確な目的があるような……」
「ああ、弟が死んだ時もあの女は悲しそうな顔をしたんだ。まるで自分の肉親が死んだ時のような」
そうだ、あの六人はまるで俺達を世界の敵のように扱う。
「弟の死に方……消え方と言った方が正しいが……明らかに異常だった。今まで殺された人々はまるで眠るように死んでいったからな」
「シコウは……シコウは復讐のために戦っているの?」
「……どうだろうな。最初はそうだったのかもな。でも今は真実が知りたいだけかもしれない」
人間の欲求には食欲、性欲、睡眠欲など様々であるが無視できないのが知的欲求だ。好奇心とも呼べるこの欲求のなんと強いことだろう。この欲求なしでは人類はここまで進化できなかった。
「……俺もそうだ。真実が知りたい」
「そうか……。永志、この世界でも人は死ぬよな」
「……うん」
「でも病死をみたことはあるか? 事故死なんかもそうだ。この世界での死は寿命をまっとうするのがほとんどだ」
「それは……」
そうだったかもしれない、少なくとも俺の周りは。
「なのに病気に対する研究。誰にも使われないのに病院なんかもわずかだがある。この矛盾はなんだ?」
「……分からない」
「まあ、俺も正隆に言われるまで気付かなかったんだがな」
ここで噂をすればなんとやら、まっちゃんが起きてきた。その後ろにはアルもいる。これであの戦い以来始めて四人がそろったわけだ。
「おお永志、起きてたか。まったく、少し探したじゃないか」
「まーたシコウは名前みたいに難しいこと考えてー」
まっちゃんとアルが順番に俺らに話しかけてくる。俺は微笑みながら答える。
「おはよう二人とも。もう昼近いけどね。名前みたいに難しいってどういう意味?」
「だって僕、いまだにシコウの名前書けないよ! まっさんもシコウも永志も…………難しい字使い過ぎなんだよー」
アルがなぜか愚痴りはじめた。シコウに名前を書いてもらうとどうやら「子纲」と書くらしい。これは確かに難しいな…………。
「僕なんかアルだよ、アル! A・l だけ! 2文字! たった3角! 書き終わるのに1秒かかんな……やめよう、なんか悲しくなってきた。」
アルが勝手に愚痴って勝手にしょんぼりする。アルはやっぱりおもしろいな。
「そうだ永志、聞きたいことがあったんだ」
まっちゃんがアルを無視して俺に話しかける。
「永志は俺との過去の記憶は全てあるか?」
「どういうこと?」
「例えばどこで遊んでいたかとかは覚えているか?」
「……いや、覚えてないな。確かにあるはずの記憶がないんだよ」
「そうか……」
まっちゃんは何かを整理するように考え込む。その後俺にあるお願いをしてきた。
「永志、ケータイに登録されてる全ての人に連絡を取ってみてくれ。俺とシコウがためしたら9割以上つながらなかった」
「そんなことって……」
ないとはいいきれない。今でも連絡を取ってる人なんてほとんど……いや、ゼロだ。というかケータイが誰かと連絡を取るためにあることすら忘れていた気がする。試しにケータイに登録されている人の名前を見て見るが思い出せる人は誰もいなかった。
「頼む。三人同じ現象がつづけば俺とシコウだけが特別でないと証明できるからな」
「分かった。じゃあちょっと外で確認してみるよ」
俺はまっちゃんから託された任務を成し遂げるため外へ向かった。




