出逢い。
私、泣かないよ。
私、笑えないよ。
だから、許さなくて良いよ。
ずっと、ずっと。
その世界は三つにかつて分かれていた。
一つは、人間の住まう人間界。主に慈悲と愛慕を象徴とする力を持つ天界。そして、強意と自我をの力を象徴とする魔界。それぞれは実に微妙な力を保ちながら存在していた。
活気の溢れるそれぞれの世界の歯車が狂ったのは、世界全体を揺るがす大規模な事件だった。
それを彼らは”天界焼け野原”とやや揶揄の篭った呼び方をしている。天界が一面焼け野原になるというかつてない事件。犯人は未だに見つかっておらず、食物の育成も不可能な程の傷を受けた天界の生き残った者達は、魔界へのやってきた。
あれから数年。天界は手つかずのまま放置されていた。
この物語は、ほんの一部の者しか知らない。かつて慈悲と愛慕に溢れていた天界からは想像も出来ないゲームが行われていることを。
多くの人で賑わう、魔界最大の学園。
そこに彼女達はいた。
集まる視線に居心地の悪さを、覚えながらもお気に入りの席で学食のメニューで一番好きな白玉うどんを啜る。
じふは見世物ではない、と訴えたい気持ちを抑えながらも少女、岡田由久は最高の白玉を口に放り込んだ。同じく目の前で楽しそうに笑いながら笑談しているのは双子の兄の由多と幼馴染みの由花だ。二人は視線が気にならないのだろうかと不思議に思いながらもすっかり空になったどんぶりの乗ったトレーを、持って席を立った。
「私、教室戻るね。」
一言告げて、急ぎ足で教室へと急ぐ。
早くこの視線から逃れたい。
教室へ入ると、不思議な事に誰もいない。ホッと一息ついて自席へと座り突っ伏した。昼飯位、ゆっくりと摂らさせて欲しい。これもそれも仕方のないことなのは確かなのだが、どうも落ち着かないのだ。仕方のない、というのは由久や由多、そして由花は魔界の立派は次期国王候補である第一王子と王女なのだ。代々、由久達の一族が治めてきたこの世界。好奇心やらなんやらと入り交じった視線には慣れない。
大きなため息を吐く。早く帰りたいと、五時限目の準備をする。
と、その時不意にドアの方からカタリと音がした。咄嗟にそちらへ向くとそこには一人の少女。
由久は思考を巡らせた。この子は確か、と目が合った。
しん、と静まり返った教室で暫く見つめ合う。
最初に、沈黙を破ったのは彼女だった。
「岡田由久さん?」
一歩、また一歩と彼女の歩みによって距離は縮まっていく。何故か体が固まって動けない。
彼女は不敵な笑みを浮かべ、近付いてくる。
「ねえ、今楽しくないでしょう?」
甘く囁くような声に、ぞくりと背筋が凍る。
「私と契約しましょう?」
「けい、やく?」
ようやく絞り出した声に彼女はこくりと頷いた。
「私は赤井朱重。私と、退屈な毎日からぬけだしましょう。どう?」
甘い香りに、酔いそうだ。と、赤井朱重を見て思った。
「契約したら、何か利益はあるの?」
「うーん、そうね。まだ秘密だけど。」
華麗にウィンクを決めた赤井朱重に由久はつい、こくりとうなすてしまった。
すると、朱重はにやりと意味深に笑うとそのまま由久へと口付けた。
あまりに唐突な出来事に由久の思考は一瞬にしたストップする。
全身から力が湧いてくる。
変な感覚だ。
不思議な心地よさに由久はゆっくりと意識を失っていった。