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   ※   ※   ※

   あいつはいつものように屋上からいなくなった。話したい、もっと話したい。も

  っとちゃんと話がしたい。なのに言葉にできない言葉が出ない。意識してしまう。

   あのくらいで揺らいであいつから距離を取る自分が嫌だった。少し前まではあいつ

  から話してくれていた。でもちゃんと返せなかった。それからだんだん会話もなくな

  った。あいつに壁を作ったのは自分だ。わかっているのに、謝りたいのに・・・・・

   勇気との関係もこの頃噂になってきている。あいつはそれは違うと思ってくれると 

  信じていた。でもこの頃それが怖い。あいつが遠い。私を信じてくれている?

   私を見てくれている?私と話したい?私と一緒にいたい!?

   そんなことも聞きたい。聞きたいのに・・・・・・・・・・・・

   なんで素直になれないのか。多分私は今あいつを傷付けている。何も言わずに距離

  を置いて・・・・・・・・怖い。

   でも一番怖いのは・・・・・・・・・・・・・・・・・

   

   ――――私の居場所、あいつの隣を誰か別の娘に盗られることだった

  

  「愛ちゃん?どうしたのぼーっとして?」

  「え!?あ、な、なんでもない、なんでもない!」

   と愛想笑いを浮かべる。勇気のことは嫌いじゃない。昔はコイツも不良じゃなかっ 

  た。でも変わった。でも、勇気は勇気。でも、今は何か違う。何が違うのだろう。

   その思考が私の頭をぐるぐる回っていた。

   ※   ※   ※

   授業ももう終わり、放課後で賑わう校舎。でも、俺は今日たまたま昨日掃除をサボ

  ったせいで掃除をさせられる。それが嫌で逃げたがやはり捕まった。逃げたせいで、

  教室の掃除と、あともう一つ追加された。科学室だった。

  「やっと教室終わったよ、ってもうこんな時間だ」

   まだあと科学室も残ってると思うとただでさえ憂鬱だったのにもっと憂鬱になる。

   そして最後に明日の日直の名前を黒板に書こうとすると黒板に貼り付けてある張り

  紙を見る。夏祭りと花火大会のものだった。そういえば春音に・・・・

   俺は少し考えた。でも、俺は男だ。待ってるだけなんてカッコ悪いだろ。

   嫌いなら嫌い、好きなら好き、はっきりして欲しい。そう決心した。

  「誘ってみるか!俺から行かなきゃな、待ってるだけなんて俺じゃねぇよな」

   碧波に次あったら伝えよう。一緒にこれに行こうと。避けてた理由も聞きたい。全 

  て聞きたい。あいつのことも。全部。

  「とっとと、これ終わらせるか」

   そう呟いて俺は教室を出た。

   さっき消した日直の名前は、碧波だった・・・・・・・・・・

   ※  ※  ※

  「ごめん、付き合ってもらっちゃって」

  「え?いいよいいよ、愛ちゃんのためだもん」

   と、勇気も笑顔で返してくれる。

   今日こそはまた一緒にあいつとかえろう!と思ったけどあいにくの日直。プリント

  をある教室まで持っていくように頼まれていた。

   それに勇気も付き合ってくくれた。

  「はぁ、ついてないな、今日に限って」

   もうあいつは帰ってしまってるのだろう。そう考えるととても憂鬱になる。

   渡されたプリントをその教室に運ぶ。中は無人。鍵を持ってきたけど、もう空いて

  いた。これは疑問だったけど、まあ、そんなことは気にしなかった。

   プリントをとりあえず適当に置いて勇気もそのとなりにおいてくれた。

   これは本当に助かった。かなりの量のプリントを先生持たせるんだから!

  「じゃあ、帰ろっか」

   と、勇気に言うと、勇気はじっと私を見ていた。

  「愛ちゃん」

   少し小さくでもよく通る声を出す。なにが始まるのか。

  「小学校の頃さ、俺が転校するとき、あの時も最後は科学室だったよね」

   ああ、あの時のこと。

   ちっちゃい時に勇気は転校することになってここでお別れの挨拶をしたんだ。

  「あの時、俺、なんて言ったか覚えてる?」

  「え?」

   だめだ!!覚えてない!

   なんて言ってたっけ!?

   そんな鮮明に思い出せなかった。だから正直に私は言う。

  「ご、ごめん、あんまりよく・・・・・」

  「・・・・・・・・・・そっか」

   勇気は少しさみしそうな顔をしてうつむいたがまた私を見る。

  「俺変わったでしょ?」

   え?変わった。確かに変わった。転校するときはこんな不良ではなかった。

  「昔から愛ちゃん不良が好きだったでしょ?」

  「う、うん」

   昔から少女漫画の好きな私は不良ものばっかり買っていてもう憧れだった。

  「愛ちゃんのために変わったんだよ?」

  「え?」

  「硬派でかっこいい、不良なのにやさしい、そのものになったんだよ」

   ・・・・・・・・・・・・・・・なんとなく言いたいことはわかった。

   でも、私は・・・・・・・・・・・

  「愛ちゃんのために強くなったんだよ?今なら君を守れる」

   守る。守ることは強さとはつながらない。腕力だけの強さは人を傷付ける。それを

  私はあいつに教わった。

   そしてあいつは私を守ってくれた。どんな時も。

  「愛ちゃんの憧れ赤目の鬼のこともしってる、今この学校にいるんだよ」

  「!?」

   前に聞いた。でも正体はまだわかっていない。

  「だ、誰なの?私の知ってる人?」

  「・・・知ってるよ、よく知ってる」

   誰!?わからない。そんな素振りを私の知っている人は見せたことがない。

  「誰なの!?」

  「知りたい?」

  「当たり前じゃない!」

   なんで知りたいのか・・・・・前は憧れていたから、それだけだった。でも知りた

  い理由は今は違う。今の知りたい理由は、

  

   ――――あいつの全てを知りたいから

  

   あいつと同じ学校、そしてあいつもよく知っていた。そんな彼を一目みたい。あい

  つがいた学校の頂点を見てみたい。そう思ったからだ。そして私の初恋の相手だから。

   顔も覚えていない、見ていない。でも助けてくれた。そんな彼に惚れていた。

  「なら、教えてあげる」

   そう言っていきなり勇気は私に手を回して唇を近づけてくる。そして顔が三センチ

  程度のところで止める。そしてつぶやいた。

  「今・・・・・・・・・・・君の後ろにいる」

   ―――――――――え?

   勇気が見ているのわ私じゃなかった、その後方。出口のドアの方だった。

   そこにひとり、よく知る男が立っている。

  「――――――嘘・・・・・・・・・・・・・」

  「・・・・・・・何やってんだよお前ら・・・・・・・・・・・」

   ※   ※   ※

   掃除をしに来ていきなり目に飛び込んだのは、碧波と浅田が抱き合ってキスしてる 

  ところ。そして碧波も振り向く。 

  「何やってんだよ・・・・・」

   すっと、浅田は碧波から離れる。そして俺の方に歩いてくる。

  「君の方こそ」

   碧波はなぜか呆然と立ち尽くす。

  「君の方こそ・・・・・・・・・・」

  

   ――――邪魔しないでよ

   

   その言葉でなぜか一気に頭に血が昇る。

  「てめえええええええええ!」

   ダァァ!

   ものすごい打撃音と共に浅田が吹き飛ぶ。

  「ちょ!何やってるの蓮!」

  「らぁああああああああああああああ!」

   突っ込んで浅田を押し倒し、マウントをとり、何発も何発も殴る。

  「何してんだよって聞いてんだよ!?」

   ダン!ダン!ダン!ダン!ダン!

   鈍い音が教室に鳴り響く。

   でもこいつはなんでか反撃してこない。

  「何・・・してんだよ・・・・・・・」

   俺はすっと立ち上がる。

   すると浅田も立ち上がり、俺を見るそして、

  「何って、抱きしめて―――」

   ―――――――――――――キスしてたんだけど?

   ピキッ!何かが砕ける。

   どぉおおおおおおおおおおおん!

   ありったけの力で浅田を殴り浅田は爆風に巻き込まれたかのように吹き飛ぶ。

  「なんて言いやがったてめぇ!?」

   もう自分で自分を制御できない。

  「この野郎が!言葉通じねえのか!?」

   そして俺はまた突っ込む。もう殴るしかない、そして猛突進した、瞬間! 

   視界にあいつが割り込んでくる。

  「やめてっ!」

  「え?」

   俺はすっと足が勝手に止まる。前には碧波が浅田をかばうように立っている。

   ―――――俺とあいつの接点

   碧波は浅田に駆け寄る。

   ――――俺とあいつのつながり

   そして青波は肩を貸し浅田をおこし上げる。

   ――――それはあいつにオレが協力する、恋人を作る

   青波は俺をきっとにらむ。

   ――――その接点が今・・・・・・・・・

  「何してるはこっちのセリフよ!何が!何が何が!」

   ――――赤目の鬼よ!

   碧波は俺でなくあいつの肩を持つ。俺はお前のために怒った。でもそれは違った。

   お前が抱きしめられキスされていたから怒った。でも違った。

  『されていた』そうじゃなかったんだ・・・・

   ―――――今俺と碧波の細く小さな糸が・・・・・・・・・・

  「あんたなんて最低よ!赤目の鬼なんて!何が赤目よ!今すぐ私の前から!」

   ―――――――消えて!

  

   俺とあいつを結ぶ細くて硬い糸が今完全に・・・・・・・

  

   

  ―――――――――――――――――――――――――切れた

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