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 今日は雲一つない、いい天気だ。急ぐこともなかったので、のんびりと歩いてやってきた。

 お父さんに言われて来た場所は、森の中だ。当然、野外で、雨が降った日には一溜まりもない。

 仕事の場所は行けば分かる、と言われたんだけど、その意味が今分かった。

 集合場所には木がないみたい。丸い形を描くように、木が倒されていたようだ。

 その中央には、一つだけポツリと、切り株がある。椅子の代わりなのかな。他に切り株がないから、面倒くさかったんじゃないらしい。


「あのー、誰かいる?」


 しばらくその場所を眺みると、誰もいないみたいだった。

 誰かいると言われてたんだけど、早速話が違う。もしかしたら、少し遅れているのかもしれない。

 それとも、早過ぎたのか。


「あのー」


 返事が無かったので、もう一回言う。しばらく経っても、やっぱり返事は返って来ない。


「誰もいないんだね」


 小さく独り言を呟いてみたら、風が木の葉を揺らし、木の葉同士がぶつかって出る音で消えてしまった。

 もし誰かが聞いていたなら、後半部分は何を言っているか分からなかったと思う。

 いないから困ってるんだけど。


「あ。君が今日のお手伝いさん?」


 一つのあくびをした時に、どこからか声が聞こえてきた。

 明るくて、高い声。近くから聞こえたはずなのに、周りを探してみてもいない。


「あはは、こっちだよ」


 今度ははっきりと声の出た場所が分かった。僕の上にある木の枝を見上げると、そこに優しい笑顔で座っていた。年は僕と同じくらいかな。

 短い髪に、小柄な身体。優しそうな顔に瞳。

 あと、僕とは違う性別だね。少女。

 足をプラプラしながら僕を見下ろす姿は、子供っぽく見える。

 でも、右手には武器を持っている。黄色くて身長と同じくらいある棒の先が、鋭く尖っている。

 槍、なのかな? あれじゃあ、棒のほうがしっくりくるけどね。


「あ。えーっと……」


 そんなことより、お父さんから出会った時になんか言えって言われたセリフがあった気がする。それほど長くなかったような。


「どうしたの?」


 少女は、木から飛び降り、僕の前で綺麗に着地する。結構な高さがあったのに、怪我はないらしい。

 地面が芝生だから?


「あの、今日は一日よろしくお願いします」


 お父さんには、大きな声でって言われたけど、普通くらいの大きさになってしまった。

 これ以外にも色々あったけど、僕が覚えきれなかったからこれだけになった。

 すると、少女はふふ、と笑う。


「そんなことしなくてもいいよ。年も同じだろうし、敬語は使わないでね。私はレイって名前なんだけど、君は?」

「名前……ラギだよ。確か」


 人と話すことが少ないと忘れちゃうんだよね、名前。だからうまく頭に出てこなかった。


「ラギくん、だね。よろしく」

「こちらこそ」


 レイさんが手を差し出したので、僕も同じようにする。

 手を握ると、柔らかくて、確かに人の温もりがあった。お父さんの手はもっとゴツゴツしてて、硬い。

 人と触ったのは久しぶりかもしれない。


「じゃ、早速行こうか。手伝ってもらうことは歩きながら話すよ」

「うん」


 棒を肩に担ぎ、歩き出したレイの後を、僕もついて行く。

 再び丸から抜け出して、森の中へと入っていく。村の外には獣がいるはずなんだけど、今日は見ないな。

 少しずつ暖かくなっていくこの頃。歩いているだけなのに、汗が出る。

 もう寒いのもしばらく終わりなんだろう。弱い風が頬に当たっているのを感じながら考える。気持ちいい。


「ラギくん、武器は持ってないの?」


 前を歩いていたレイさんが急に振り返る。額に少し水滴が付いているから、暑いんだろう。


「武器は、うん」


 忘れた。


「じゃあ、あんまり私から離れないでね。獣に襲われると危ないから」

「でも、この辺の獣は大丈夫だよ。大人しいし、寒くないと暴れたりしないよ」

「念のためだよ」


 レイさんは前を向く。話が終わりってことだろう。

 この辺のは本当に大人しいんだけどな、可愛いし。

 それにしても長い道のりだなあ。

 あれ、さっき歩きながら話すって聞いてなかったっけ?

 仕事の事はいいのかな。


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