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僕らが暮らす世界には、葉が一つもない木がある。世界樹って、みんなは呼ぶらしい。
その周りに人間は、村を作った。
全員合わせて百人いるかどうかの、小さい村で、でも争いのない平和な村。
とても平和な世界なんだけど、少しだけ危険なものもある。
世界樹の近くにいれば大丈夫なんだけど、外に出るとたまに獣に襲われる。
だから、村の外に出る時は、武器を持たないといけない。
「おい。何ボーッとしてるんだ?」
と、僕に言ったのは僕のお父さん。今はまだ起きたばかりで、僕は椅子に座っていた。
お父さんの家は木でできていて、必要最小限なものだけ置かれてある。
僕は自分の部屋と寝れる場所さえあればそれでいいから文句はないけどね。
「うーん、なんとなくこの村のこと考えてた」
半分寝ている頭を覚ますために、パチンと頬を叩く。それでもまだ頭は起きない。
「頼むぞ。今日はお前の仕事なんだ。最初の印象は大事だから、失敗するなよ」
「あー、うん。分かってるよ」
仕事というのは、僕がお金を貰うために何かをする……ところだっけ?
なぜだか知らないけど、僕は仕事をすることになっていた。どうしてこうなったかは覚えていない。
確か、もう十八になったんだからなんたらこんたら。
「でも、まだ朝早いじゃん。どうせ、その、仕事をするのはもうちょっと後なんでしょ? まだ太陽も昇ってないよ」
「そんなお前だから失敗するんだよ」
僕の頭を軽く叩き、お父さんは丁寧に、机の上に食器を並べる。
湯気が立っているから、今日はスープかな。
「ほら、さっさと食って着替えろよ」
それだけ言うと、お父さんは木の床を軋ませながら、外へ出ていった。
「いただきます」
僕は手を合わせて、朝早い朝食を食べ始めた。
絶対にもっと寝ててよかったと思うんだけどなぁ、なんて。
小さく愚痴りながら。