「つまりイケメンに限る」
前回のあらすじ。
イケメンは黒髪ロングフェチでした。
自然な黒髪と自然なストレートロングが織りなす絶妙なハーモニーに心奪われて幾年過ぎたある日、高校生活で見かけた理想の髪の毛を密かに探し続けて数カ月、身元の確認やらを済ませて声をかけるに至ったのが昨日、そして例の告白、という事だったそうだ。
なるほど。
罰ゲームではなかったらしい。
「髪質的には古仲さんの方がキレイだと思うけど」
「確かに悪くないが、今一つボリュームがな…」
こだわりがはんぱねぇ。
つまり私の髪の毛が、量・質共に折出君の好みにストライクバッターアウトって事か。
折出君ファンっぽかった古仲さんごめん。
黒髪ロングでポニーテールのクラス委員長へ、心の中でこっそり謝罪した。
ちなみに現在、私はわざわざ折出君に背中を向けて、髪の毛撫でられっぱなしの状態である。
さっき以上に遠慮なく髪の毛をいじられて、気を抜いたらうとうとしてしまいそうだ。
髪の毛っていじられると眠くなるよね。
「折出君自身も綺麗な黒髪だから、伸ばしたら?」
「ん…、自分のじゃ意味が無いな」
他人のを触りたいのか。
分からんでもないな。
確かに自分のだったら触り放題だけど、その場合目で楽しむ割合が激減してしまうから。
生え際からの頭部にそった曲線で輝く天使の輪なんて、他人のものじゃなければ堪能できまい。
「……気味悪く無いのか?」
「なにが?」
「男のくせに、こんな、髪の毛に執着して…」
「??? そうかなぁ…」
別段珍しい話ではないように思う。
黒髪姫ロングに心血を注ぐオタクをネット上で時々見かけていたせいだろうか。
私が「男の上腕二等筋萌えー」って言うのと大差ないんじゃないかと思…いや、大差あるな。
だって折出君がイケメンだから。
彼ほどのイケメンが「黒髪ロングが好き」と言えば、周囲は「大和撫子が理想なのね、好みまで素敵!」って感じの反応になるんではないか。
これがキモオタだったら「巫女さん萌えって事だろこのキモオタがwww」って感じだろう。
別に巫女萌えを否定する訳ではないけど、むしろ推奨するけど。
「人の好みはそれぞれだし、マイノリティが大変なのはしょうがないけど、折出君なんかはまだ常識の範囲内だし、いいんじゃないの?」
私なんて腐女子だよ、という言葉は言わないで置く。
一応恋人ということなのだが、このイケメン相手に話せる内容じゃないだろう。
「ありがとう…っ」
そう呟いた折出君は、あろうことか後ろから抱きしめて来た。
思わず「びっくぅううっ!!」なんて効果音が付きそうな程飛びあがったのだが、それでも腕の拘束が解かれる事はなかった。
腕ごと抱きしめられているため、体を揺するか捩るくらいしかできないではないか!
しないけど!
感極まったらしい声もそうだったけど、やはり自分の性癖に不安があったのだろう。
ようやく理解してくれた人は、なんとか探し出した理想の(髪を持った)相手。
ちょっと突飛な行動を取ってしまっても仕方ないのかもしれない。
私も、ユッキーと分かりあえた時は嬉しかったなぁ…☆
なんて遠い目をしてしまったが、そういやこの状況って少女漫画じゃねぇのと思い至る。
なんてこった、付き合い始めての初抱擁だぞ、超はずかしい!
やめて、そういうのは…そうだな、私と同じ髪質を持った男子相手にしてあげて!
髪の毛を伸ばしているせいで女の子と勘違いされる男の子とのハートフルラブコメとかどうですか、だめですか?
若干混乱しながら折出君の様子を伺うと、彼は私の後頭部へ顔を埋めながら、ぐりぐりはふはふしているようだった…。
こいつ、髪の毛堪能してるだけだ!!!
→