「前世厨じゃないけども」
どうも腐女子です。
名前は和泉芽衣子と言います。
読み方で間違われた事の無い名前が小さな自慢です。
最初に述べた通り男同士のラブに興奮を示す腐女子という存在なのですが、実はちょっと普通の腐女子とは違っていまして。
前世の記憶があるんです。
前世と言ってもやれ邪馬台国の卑弥呼だのジャンヌダルクだの、ましてやアフロディーテの生まれ変わりだのとは言いません。
極々一般的に平和な人生を送った腐女子でした。
そう、腐女子でした。大事な事なので二度言いました。
まぁ、穏やかな腐女子人生は大学卒業式帰りの交通事故で幕を閉じた訳ですが。
きっと脳内彼氏でもない二次元的な俺の嫁しかいない私を哀れに思ったのだろう、死後の世界っぽいところで自称神様が私へ言ったのです。
『次はもう少しましな人生を送らせてやろう』と。
どういう基準で『まし』なのかは分からないけど、とにかく私は前世の記憶を受け継いだ腐女子として今生を生きているという訳だ。
敬語も面倒になってきたところで現在の状況である。
なんだかんだで無事に高校入学したのが半年程前。
そろそろ涼しくなってくるねーという頃合いの九月末の今日。
放課後に残っていて欲しいという手紙をいただいたのだ。
差し出し人すら書かれてないソレには不思議な吸引力があって、多少いぶかしみながらも残る事に決めた私を待っていたのは、先程の告白イベント、という若干出オチ感のあるサプライズだった。
ちなみに私へ告白してきたイケメンは折出伊月君。
クール系の涼やかイケメンである。
ポイントは爽やかではなく涼やか、というところだろうか。
切れ長の瞳とさらさらの黒髪は艶やかで、淡々と理知的な喋り方だったりするから、そんな彼に罵られたいという女子は多いらしい。
さすがドS攻めの需要は高いな。
「返事はすぐじゃなくても構わない」
「へ?」
おっとそういえば告白の最中だった。
若干顔色を悪くした折出君が妥協案を出してくる。
でもちょっと考えてみよう。
こんなイケメンが私みたいな腐女子に告白する理由を。
一目ぼれだなんて言ってたけど、私の容姿は一目ぼれに対応する程のハイスペックではないのだから、この部分は単純に嘘なのだろう。
分かり易いところで、罰ゲームかな。
彼がそんな低俗っぽい遊びに付き合うかはさておき、他の理由があったとして似たり寄ったりだと思う。
だったらとっととこの茶番は終わらせるべきだ。
「あー、いや、別にいいよ」
「…『別にいい』とはどういう意味だ?」
「えーと、付き合ってもいいよって意味」
「………そうか」
何が不満か知らないけど、なんだか複雑そうな顔である。
やはりアレか、私がイケメンじゃないからか?(笑)
「もう用事が無いなら私帰るけど」
「あ、あぁ。その、一緒に帰らないか?」
「いや、ごめん。友達との待ち合わせがあるから、無理っす」
「……………そうか」
また複雑そうな顔である。
私がイケメンじゃないからか!(二度目)
とりあえず私は適当に「じゃーね」と手を振りながら教室を飛び出した。
時間に煩い友人のために、多くない体力を振り絞ってダッシュする私は良い人だと思うよ。
走りながら、私は携帯でメールを作成する。
『ラブマジのトーヤ様そっくりなイケメンに告白される罰ゲームなう!』
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