「氷の貴公子は伊達じゃない」
「いいいい、いちゅ、…伊月君、何してんの何しちゃってんの!」
「…俺の大事なものに傷を付けた復讐を少々」
「少々ってレベルじゃないんじゃない!? 大事なものって…え、復讐?」
そこで私は勘違いに気付く。
つまり古仲さんが私の髪の毛を惨殺(?)した犯人で、どういう訳かそれに気付いた伊月君がハンムラビ法典的復讐を果たしたのが現在、ってことなのだ。
すごい、推理小説やドラマみたい!
でも一番の見所を見逃してしまった私…、ガッデム!
証拠集めや犯人への追及シーンとか、一緒に推理しながら見るのが一番楽しいのに。
動機についてはなんとなく、男女の間柄に関る事なんだろうってくらいは私にでも分かる。
古仲さん、ただのファンじゃなくて、伊月君に本気だったんだなぁ…。
「古仲、俺に告白してくれた事は感謝してる。お陰で彼女を…芽衣子を見つける事が出来た」
なんとなくしんみり無言になっていたところで伊月君の爆弾発言投下。
多分、伊月君は真面目だからちゃんと告白されたらちゃんと相手を見て、正確には相手の髪質を見て、お断りをしていたんだろう。
そこにそれなりに好みの(髪質を持った)女子から告白されて、いいかも…なんて心が揺らいでそれとなく彼女(の髪)を視線で追ったりしてたら、なんと彼女の近くに理想(の髪質)の女子が、という事か。
うわあ、それなんて当て馬?
てかそれだと古仲さんが伊月君に告白しなければ、私と伊月君の今の関係も無かったかも知れないと言う訳で。
…おおう、古仲さんなんてことを…。
私の腐女子ライフを脅かしたのがまさかの美人委員長とか、私が男だったらそこからライトノベルが始まりそうじゃないの。
「だが、今後また芽衣子…に手を出す事があれば、その時は容赦しない」
ばーん!!!
そんな効果音が付きそう。
じゃーんでもどーんでもいい。
さすがイケメン、決め台詞が似合う。
しかし名前の後に「の、髪の毛」って付け足そうとしたのは減点だ。
カッコ良く決め台詞を吐いてくれた伊月君は、颯爽と教室を出て行った。
多分授業開始時間前に机に着く為だろうけど、犯人と被害者放置でいいのかおい。
恋愛ドラマだったらこの後、彼女の手を引いて屋上だったり近くの河川敷だったりでサボりつつ慰めたり愛を確かめ合うのがセオリーな気がするけど。
いや、しようって言われたら断るけどね?
ちなみに髪の毛を半端に切られっぱなしの古仲さんはと言うと。
「…はぁん…、折出さまぁ…っ」
恍惚とした表情で両頬に手を添えていた。
さすがドMに大人気の「氷の貴公子」である。
一層カオスな空間となった教室内だったが、チャイムが鳴って教科担任が入って来る頃にはほぼいつも通りの状態に戻った。
古仲さんも不揃いな髪の毛を気にしない様子で委員長業務に励んでいる。
基本は真面目なのだ。
「俺のせいで、本当にすまない事をした…」
第二回『彼氏と過ごすドキドキランチタイム☆』にて、スライディング土下座せんばかりの勢いで私に頭を下げる彼氏、もとい「氷の貴公子」伊月君。
「髪の毛の事なら気にしなくていいよ? そろそろ切る予定だったし、私伸びるの早いし」
実際にそのつもりだったのでそう言う。
短くする時は顎くらいまで切るし、それだと現在よりも若干短いくらいだろうか。
だから全然気にしてないというのは、誓って嘘じゃない。
むしろ美容室代が浮いてちょっとラッキーと思ってるくらいだ。
この浮いたお金でアニメイトにでも行こう、そうしよう。
私の「伸びるの早い」発言で伊月君の目がきらっと輝き、「本当?」と訴えている。
本当だよ、月に2cm余裕で伸びるよ。
「…じゃあ、次に切る時も俺に切らせてくれないか?」
「え、ほんと? いいの?」
「ああ、いや、俺が切らせて欲しいんだが」
「わぁ、やったぁ! 嬉しい!」
これで本代に回せるおこづかいが増える、やったねぐへへ!
なんて思っても口に出さないだけの配慮はあった。
後から思えば、いっそ口に出してしまえばよかった。
「あ…、すまない、つい…」
「……………」
私のファーストキスは、ついで奪われた。
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恍惚のヤンデレポーズ!
(∩゜∀゜∩)<ハァン…ッ!