「乙女ちっくママン」
その後特に何事も無く家へと送り届けられた私は、既に帰って来ていた母へ報告する事にした。
「お母様、わたくしカレシが出来ましたよ」
Vサインを向けながら告げると、母は驚愕の表情を浮かべながら分かり易くボールを手から落とし、くわわわんなんていう間抜けな音を響かせた。
「え…、フラれたんじゃなくて? ていうかあなた、現実の男に興味があったの?」
突然髪の毛が短くなっている事を指しているらしい。
確かに、今まで髪を切る場合は事前に告げてお小遣いを請求していたのだから、唐突な断髪にそういう考えが過るのもしょうがない、かなぁ?
「現実の男には今もあんまり興味ないけど、すっげー心からイケメンに告白されちゃったから、オッケーしちゃった。そしたらちょっと女子にやっかまれてざくっとね」
簡潔に説明すると、こんな感じだろう。
母は「あらあら」と楽しそうにしている。
「あなたみたいな子がやっかみを受ける程のイケメンを引っかけるなんて、世の中何が起きるか分からないものねぇ」
「本当だよね」
母は私を良く分かっている。
そして許容してくれている。
漫画アニメゲーム、そして二次創作にばっかり心血を注いでいることを理解し、応援してくれる素晴らしい母上だ。
素晴らしすぎて時々心配になるレベルだけど。
「それにしても綺麗に切ってあるわね。やっかんだ女の子って美容師志望の子だったの?」
例えそうだとしても、嫌がらせのカットでこんなに揃えてくれるわけねーよwww
「これは例のイケメンに整えて貰ったんだよ。んでこれ彼シャツ」
折出君は細身だけど、結構身長が高い。
平均女子より少し低い私の身長とは20cmくらいの差があるから、彼のTシャツはほぼミニワンピ状態でスカートの裾がちらっと見える程度である。
完全に隠れるようだったら、下のジャージも借りるところだった。
「あらぁ、すごい。私芽衣子がこういう乙女ちっくな話を持ってくるなんて思ってもみなかったわぁ!」
「それは私もですお母様」
本当に、世の理とは奇妙奇天烈摩訶不思議。
Tシャツの裾を引っ張ったりタグを確認しながら「機会があれば紹介してね」とはしゃぐ母は私より乙女である。
女子力の低い娘でごめんなさい。
それからはいつも通りご飯を食べて(ご飯の間、母による男心をがっちり掴むテクニック講座が開かれたが、半分以上聞き流し)お風呂に入った。
髪の毛を洗う際に、「ちょっとくらい気を使った方がいいのかな」なんて思ったのは、乙女ちっく思考のせいではない。
なんの取り柄もない私に髪の毛という存在意義(?)を見出してくれたイケメン様への恩義故だ。
だから明日オススメのトリートメントを聞こう。
そのついでに体の寸法も聞こう。
せっかくのイケメン彼氏だ、大いに楽しもうではないか。
ユッキーにも連絡して、準備を進めなくては。
ああ、明日が楽しみだわぁ、うふふ。
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