青色の1ページ
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信号の青はなんで青って言うんだろう。あたしには緑にしか見えないのに。
まあこの答えはのちにとある高校の国語教師から聞くことになるんだけど、中学1年生だったころのあたしには答えなんてわかるはずもなく。
そしたら空の色も海の色も、今握りしめている絵の具でさえも、本当に青なのか。
本当にあたしが思い描いている色なのか。って不安になってきた。
多分大人や答えを知ってる人にとったら、しょうもないことに見えると思う。
でもあたしのちっちゃくて固い脳みそが抱えるには十分いっぱいいっぱいで、ぐるぐるで気持ち悪くて。
熱がでて次の日、学校を休んでしまった。
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きのう1日学校を休んで、なんだか体がすっきりした。いっぱい寝たし。
でもやっぱり、気分は晴れないままだった。
根本的な解決はしてないしね。
授業中もずっとおんなじことばっかり考えちゃって、1時間ごとに代わる先生の言葉も右から左へと流れて行った。
そしたら周りの子が、ぼうっとしているあたしを見て、まだ体調が悪いんじゃないかと心配してくれた。なんか悪いな。
先生もあたしの様子が変だと思ったのか、昼休みになると、もう帰りなさい。って言ってくれた。
よし。サボリだ。
あたしがぼんやり帰る準備をしている間に、なぜか家が近所の幼馴染の男の子も一緒に帰ることになっていた。
まあ、家に帰ってもまだ誰もいないし。先生たちが心配するのも当たり前なのかな。
でも正直たすかる。
こんなに良い天気の日に、今の状態で1人で歩くなんて無理だ。
見渡す限りの青い空の下で、耐えきれなくなって発狂するかもしれない。
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「ごめんね」
幼馴染にいちおう謝っておく。
まあ彼はあたしの想像どおり、
「全然。むしろサボれてラッキー」なんてことを言ってくれた。
彼と並んで歩くのも久しぶりだ。
小学生のときは毎日いっしょに登下校してたのに。
心配してくれるのはいいんだけど、何度も具合は悪くないか聞いてくる彼が絶妙にうざくてあたしは途中から無言を貫いていた。
するといつのまにか彼も黙った。
静かになってよかったよかった。
その代わりに、彼は右手をあたしの左手付近でぐーぱーぐーぱーするようになった。
でもあたしが彼にちらりと視線をやると、なぜか急に何かを誤魔化すようにして野球の素振りをし始めた。あれ、おかしいな。
「……あんた、サッカー部じゃなかったっけ?」
「あー、えーと、今度の球技大会で野球になったんだよ」
「ふーん。あたし野球のルール全然わかんない」
「は!? ありえねえ!」
それから彼はあたしに野球のルールを説明し始めた。
木製バットと金属バットの違いとか、ボールの投げ方まで頼んでもないのに教えてくれた。
……実はサッカーのルールもよくわかんないんだけど、それを言ったらまた話が長くなりそうだから止めておこう。
ふいにまた、会話がとぎれる。
とくに話したいことがあるわけでもないので、何気なく空を仰ぎ見た。本当に無意識だったと思う。
当たり前だけど、視線の先には一面の青い空。
あまりにもまぶしくてくらくらする。
「あんたは、青ってどう思う?」
自分でも驚くほど自然に、口から言葉が漏れていた。
「……どう、って?」
彼はきょとんとしていた。いきなりこんなこと聞かれたらそりゃ驚くし意味わかんないよね。
でもあたしは気にせず言葉を続ける。
「信号のススメの色ってさ、青って言うじゃん。でもあたしには緑にしか見えないんだよね。
空の色も、じつは地球の大気によって色を変えられてるだけで、ほんとは青じゃないんだよ。調べてみたら。
もうそうなると、青って存在に騙されてるような気がしてなんないんだよ。あたし」
ため息をついて、彼を見た。
首をかしげて何か考えこんでいる。
まあ、何も考えてない体力バカにはわかんないか。
ああ、こんな疑問と一生付き合っていかないといけないのか。
自分のなかで結論をくだし、今後を憂いていると、彼が口を開いた。
「頭のよろしいお前が何考えてんのか、おれにはわかんないんだけどさ、」
前置きして続ける。
「俺は青好きだよ。それじゃ駄目なのか?」
ああ、なんだ。
気づいてしまった。
あたしはただ認めてしまえばよかったんだ。
別に青色が嫌だったわけじゃない。
広い空が憎かったわけでもない。
ふわふわしてて不安定で変わりやすくて本当に今此処にあるのかもわからない。
ただどことなくあたしをイライラさせて、不安にさせる。
でもずっと前から確かにあたしの中に存在してた、この感情を青色に対する疑問に重ね合わせてただけだった。
今横にいる、この人に対する感情をむりやり置き換えてただけだった。
無性にいらいらして走り出したくなって、それでも頭から離れない。
いつもの穏やかな自分からは考えられないような激しいきもち。
これを認めたくなかっただけだったのか。
ああ、あたし鈍いな。馬鹿だな。
一晩考えて、熱まで出したのにこんな簡単なことがわかんないなんて。
彼のたった一言で変わってしまった。
なんだか恥ずかしくて、顔があげられない。
急に黙って立ち止まってしまったあたしを不思議に思ったのか、彼はずっと無言であたしの顔を見つめていた。
あ、なんかしゃべんないと。お礼も言わなきゃ。
でもなんだか照れくさくって、ありがとうの一言も言えない。
せめて今思ってるだけでも言わなくちゃ。と思って口を開いた。
「……あたしも、好きだよ」
そうだ、青はあたしの一番好きな色だった。
最近いろいろと考えすぎて忘れてた。思い出せてすっきりすっきり。
そして何気なく彼を見ると、何故だか顔を青とは真逆の色へと染めあげていた。
「お、おう。あ、あ、青が、好きってことなんだ、よな?」
「? 当たり前でしょ?
さっきまでその話してたんだから」
つい数分前の話の内容を忘れてしまうなんて、やっぱりこいつは体力バカなのか。
さっきちょっと見直したばかりなのに。
まあ、話の内容忘れるくらい黙ってたあたしも悪いかもだけど。
すると、彼は盛大なため息をついた。
なんだよ。ため息つきたいのはこっちの方だよ。
「……まあ、お前まだちょっとおかしいみたいだし。
今日はゆっくり寝てろ」
そう彼が言ったことで、すでにあたしの自宅前に着いていたことに初めて気がついた。
いつのまに。
「うん。今日は送ってくれてありがと。
あ」
もうすでに後ろを向いて歩きだしていた彼を呼びとめる。
「えっと、あのね。
急にまた変なこと言っちゃって悪いんだけど。
あたしの中に、よくわかんない感情があるんだ。
いつになるかわかんないけど、もし整理できたら聞いてくれる?」
彼は答える代わりに笑って手をふってくれた。
そして家の前から去って行った。
謎は少しとけたけど、まだこのもやもやがなくなったわけじゃない。
このもやもやの正体はいつかわかるかな。
早くわかると嬉しいな。
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結局、鈍いあたしがこの気もちの正体に気づくのに1年。
体力バカでへたれな幼なじみの右手が、木製バットでも金属バットでもなくあたしの左手を握るには、さらに3年の歳月がかかることになる。
帰宅途中の中学生カップルを見て、無性に書きたくなりました。よくわからない話になってしまいましたが、あのころは、今思うとくだらなくて意味のわからないことに悩んでいたなあ、と思いだしました。
読んでくださって本当にありがとうございます!!