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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
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2011年11月9日

※この作品は日記という形式をとってありますが、作者の日記ではありません。

11月9日(水)

 今の自分に何ができるのか? 履歴書を買う金もなければ何かをやろうという気持ちすら起こらない、パソコンを使って文章を書いているがそれを見せようとしている相手は猿なのだ。しかも猿は動物園を脱走した。あの猿なのかは分からないが、猿が私の書いた文章メールで送信ても読んでくれるとは限らない。私は何もできないのだ。そう考えると泣きそうになったが、止めておくことにした。まるで自分が何もできないことを認めるみたいだったからだ。


 昼ごろ目を覚ますと、自室の階下の居間で母と誰かが話している声が聞こえてきた。こっそり見に行ってみると、母と元編集者が話していた。しかもその内容は仕事の話のようである。どうして編集者をやめて狂人の仲間入りをしたはずの編集者が母と仕事の打ち合わせなんてやっているのか、どうしてなのかわからなかったので見つからないように部屋に戻った。昨日の榎本なごみのことといい、どうもおかしい。もしや、と思ってしばらく待ってみると、階段を上ってくる足音が聞こえてきた。


 ノックもなしに部屋に入ってきた(元)編集者に私は尋ねてみた。この部屋の何かを破壊するつもりなのか。「よく知っているね」この前退職したのではないのか。「そんなわけないじゃないか」やはり、編集者との関係もリセットされてしまっている。そこで、編集者から聞いた話をしてみた。猿というペンネームの作家は本当に猿であるらしい。と。「そんなわけないだろ。あの猿先生が猿なんて。それにしても、どうして僕が猿先生を尊敬していることを知っているんだい」上から目線で編集者は言った。そして続けた。「それにしても、この部屋にはこれ以上破壊できそうなものがほとんどないなあ」私の部屋のものは編集者にあらかた破壊されてからそのままになっている。修繕費や代わりのものを用意する金などを私を見損なっている私のの家族が用意してくれるわけがない。壊されていないものと言えばノートパソコンくらいだ。というわけで、編集者はきっとノートパソコンを破壊するだろう。しかし、私はそれを死守するつもりである。例えどんなにみっともない格好になろうとも、泣きながらしがみついて破壊するなこの野郎とズボンの裾を掴むつもりである。「そりゃあ不気味だ。ぞっとするね。分かったよ、やめておこう。君がこれ以上不幸になるとも思えないし」そうだろうか? と思ったが、せっかく引き下がってくれるのだから、と、私はそれを口に出さずに編集者が立ち去るのを一歩も動かずに見送った。


 晩餐の席に鍋が出された。具はウインナーと白菜と肉団子と鮭とネギと豆腐と糸こんにゃくと練り物の団子と、とにかくなんだか名称のわからない鍋だった。私の取り皿にだけ、キノコが入っていた。父も妹も、私と同じ鍋をつついた。まるで今まで何事もなかったかのように、私と普通に言葉を交わした。何があったんだろう。

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