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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
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2011年11月7日

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・事件とは一切の関係がありません。

11月7日(月)

 起きると異様に汗をかいていた。何か嫌な夢でも見たのか、それともパソコンの調子が悪いのがそんなに心配なのか。起伏のない今の生活の中、パソコンの調子が悪いのは大事件である。それ故、こんなにも体が勝手に慌ててしまっているのだろうか。とにかく目覚めたのは十時過ぎだったので、昨日父に発掘してもらったサポートセンターへの電話番号を使って電話した。そして言われるがままに「ツール」から「プロパティ」を選択し、「プロパティの設定を規定値に戻す」を選択した。すると文字入力機能は正常値に戻った。


 午前中にニュースを見た。動物園から珍しい猿が逃げ出した、というニュースである。ニュースを主にインターネットで仕入れている私としては、テレビで初見であるニュースを目にすることは稀である。地域ニュースだったからだろう。最近の私は、自分が住んでいる地域のニュースを取り扱っているサイトをあまり見ない。逃げ出した猿は目がパッチリしていて背筋がピンと立っているのが特徴、とニュースは報じていたが、私には猿を見分けることなどできない。時折人間だって見分けられなくなるくらいなのだ。


 私が人間を見分けられないことがあるのは、狂っているからではない。と思う。これは先天的なもので、人間のパーツの特徴を頭に留めておくことができない脳というものが存在する。私の脳はそれに該当している。と、私は病院の初診時に告げられた。病院の初診時には、簡単な知能テストのようなものを受けた。人間の顔のパーツが描かれたパズルを完成させよ、というテストで、私は一分以上かけてパズルを完成させ、しかも右目と左目が逆であることに指摘されるまで気づかなかった。パズルの成績はきっと平均以下だったのだろう。まあ、人間の顔が多少分からないくらいで生きていくのに苦労はしない。そんなことより狂ってしまっていることのほうが重大な問題である。


 文字入力機能が治ったので、文章の執筆を再開させた。架空の人間が架空の物語を演じるのだから小説と呼んでもいいような気もするが、それは本物の小説に対して申し訳ない気がするのでこれからは文章と表記する。ただ文字が並んでいるだけの一物なのである。その文章の中で、登場人物を今日も勝手に動かせた。前回は殺し殺されかけていた男と女の登場人物が、今日はベッドで二人寝していた。どうやら私が完成させようとしているのは男と女の愛憎劇であるらしい。冒頭の動物園のくだりはいったいなんだったのだろう。


 晩餐の席で生姜とキノコのスープが出された。私は汁を少し飲んだだけで昏倒した。そういえば、昨日の晩餐にはキノコが含まれていなかった気がする。一日置いてキノコを食べただけで、こんなにも激しく狂うものなのか。狂いへの耐性が、私はまだ完成されていないようである。

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