2011年11月3日
※この作品はフィクションであり、実在する人物・団体・事件とは一切の関係がございません。
11月3日(木)
今日はふれあいサロンの曜日なので車でふれあいサロンが内包されている保健センターまで連れて行かれた。すると保健センターは閉まっていた。私を車で運んだ私は忘れていたのだ、今日が祝日であったことを。閉まったままの保健センターの入り口でこれから夕方までどうすればいいのかわからず途方に暮れていると、元編集者がある気で現れた。元編集者も閉まっているため真っ暗な保健センターの中を見て呆然となっていた。しばらく呆然と立っていた。帰らないのだろうか。「帰ってもなあ。離婚したから一人だし」自分が結婚していたことがある、ということを私に自慢したくてそう言ったのだろうか? 「まさか。そんな自慢、してもお前は悔しがらないだろ」確かにそうである。私は結婚に幻想が抱けない。しかしそんな私の性質を見破れるとは、まさか元編集者は私に興味があるのだろうか。「まさか。狂った人間が結婚なんてできるわけがない、俺はそう思っただけだよ」しかし、元編集者も狂っている。「ああそうさ。俺は猿先生が猿だったショックで狂ったさ、だから結婚していられなくなった。
それきり、何も話さずに私たちは夕方まで待った。何の刺激もない、つらい数時間だった。母は夕方迎えに来て、迎えに来た母に今日は保健センターが休みだったことを伝えたが、「そう」としか言わなかった。まあ、母が今更どんな理不尽なことを私にやっても不思議ではない。晩餐にアイスを饗したことすらあるのだから。
家に帰りついた私は、パソコンを立ち上げてワードを開いてみた。私の新しいノートパソコンにはオフィスがあらかじめインストールされていた。私はワードに何かを書こうかと考えてみた。しかし何も思いつかなかった。そもそも何かを書いたとして、それを誰に読ませたらいいのか、思い当るところがどこにもなかったのである。とりあえず、メール友達と呼べないこともない、しかしこう呼ぶと相手は嫌がるかもしれない、そんな程度の関係性のある相手である猿に向けて何かを書いてみることにした。すると、するすると書くことができた。「このキノコ人間が、」の冒頭と、全く同じ文面が。私はそれを削除し、ワードを閉じた。
晩餐には一汁三菜が出された。まるで定食屋で饗されるようなまともな食事である。昨日の晩餐を見た妹が母に何か進言でもしてくれたのだろうか。「そんなわけないでしょ」尋ねてみると、妹は言った。妹は私に優しくなどない。きっと母が気まぐれでも起こしてまともに飯でも食わせてやろうか、そんな気になったのだろう。