2011年10月29日
※この作品は作者の創作であり、作者の日記ではありません。
10月29日(土)
朝、起きたら文学的出来事が私を待ち受けていた。私の部屋には小学生入学時に買ってもらって今も使っている机がひと揃えあるのだが、そこになめくじがいたのだ。寝起きで出会う机の上のなめくじ。これって文学にならないだろうか。そんなもんが文学になるなら文学はもっと門戸が広いはずである。文学なめんな、と私は自分に言い聞かせた。そしてなめくじは声を発した。「何なら、私に定期的に水を供給していただくのと引き換えに、体液を好きな時に好きなだけさしあげますよ」と、それは提案だった。私は、その提案には乗らないことにした。そんな取引を交わしたら、私はなめくじの体液依存症になってしまう可能性がある。アルコール依存より響きが病的で、私はそれが嫌だった。「そうですか、それは残念ですね」そう言うと、なめくじはカタツムリが這うような速度で私の机から去っていった。私はそれをずっと見ていた。他にやることがないからだ。
相変わらず狂っていた私は、狂おしいほどにアルコールを欲していた。飲めば吐くことは明らかなのに、それでも酒が飲みたいのである。それと同時に、私は気が付いた。私は自失したいのだ。私は私でなくなりたいのだ。私は自分のことが大嫌いで、狂ってまで自分を忘れてしまいたかったのだ。と気づくと、私はなぜか泣いていた。酒が欲しすぎて悲しくなんかないのに泣いていた。悲しくない。本当に悲しくない。
昼過ぎに、チャイムの音が鳴ったので玄関の扉を開けてみた。するとそこには誰もいなかった。しかし、私が扉を開けると同時に、何かに触れられた気がした。それは人間のような温度を持っていて、柔らかくて、それが気持ち悪かったので、私は直ちに扉を閉めた。いったい何が私に触れたのか、見えなかったのでまったくわからなかった。
晩餐の席において、私はいつものようにキノコを食べた。すると私は狂い、いつもと同じ風景が見え、それから気を失った。そして深夜に起きだして、日記を書き始めた。机の上には何もいない。なめくじもいない。なめくじは私を見捨てたのだろうか。そもそも、なめくじは私をどうしたかったのだろうか。