2011年10月28日
※この作品はフィクションです。作者の日常とは一切の関係を持ちません。
10月28日(金)
目覚めてしばらくの間、今日が土曜日だと勘違いしていた。なぜだろう、今週は日付けがゆっくりと進んでいる気がする。病院へ行かなかった、ただそれだけのことで、体感時間の流れは緩やかになるものなのだろうか。それとも酒をほとんど飲まなかったことが原因だろうか。私は酒を飲むと眠る。なぜなら、酒を睡眠薬がわりに使っているからである。このような酒の飲み方は、きっとよくない。良くないが、私の体がいまさら故障したところで、いったい誰が心配するというのだろう。
麦茶を飲もうと冷蔵庫を開けると、麦茶が入っている大きな容器の底に一匹のなめくじが沈んでいた。これはさすがに飲んで大丈夫な代物ではないだろう、と思った私は麦茶を流しに捨てた。流しにはなめくじが残った。なめくじは私に言った。「おや、私の体液が入っていた水は飲めないと?」当たり前だろう、人間の体液入りの麦茶すら飲む気が起こらないのだ、人間以外の生き物の体液入りの麦茶など誰が飲みたがるものか。「それは残念だ。私の粘液には狂いを強制する力があるというのに」私は思わず訊き返した。
晩餐の後、キノコのせいでふらつく足を引きずって自分の部屋に戻り、机の上にスタンバイさせておいてなめくじの体をひと撫でした。するとなめくじの体の粘液が指に付着した。私はそれを舐めた。すると急に、狂ってぼやけていた世界が鮮明になった。あまりにも急に鮮明になったので、軽い恐怖すら覚えた。そして、狂いは起こらなかった。「効果覿面でしょう」なめくじは得意げな顔で(なめくじに顔と呼べる部位があるのか疑問だが)そう言った。顔はともかく、声色は得意げだった。私は、そうだな、と答え、夜を何もせずに過ごした。狂わずに過ごす世界は、こんなにも退屈なのか。