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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
74/366

2011年10月27日

※この作品はフィクションであり、実在する人物・団体・事件とは一切の関係がありません。

10月27日(木)

 今日も毎週のようにふれあいサロンへ連れて行かれた。そこには元編集者がいたが、今週はおとなしい様子だった。誰とも喋っていないし、何もしていない。まるで狂人というより廃人のようだった。一方で私も、誰とも喋らず読書をしていた。「このキノコ人間が、」の続きである。すると編集者が近寄ってきて、「そんな本読むなよ」と突っかかってきた。「猿が書いた小説だぞ」誰が書いたって小説は小説だろう。むしろ猿が書いた小説こそ、読みたがる人は多いのではないだろうか。「猿はだめだ。猿はだめだ」ならば誰が書いた小説ならいいのだろう。「絵になる人間が書いた小説だ。それが一番売れるんだ」もう編集者ではないくせに、元編集者は本の売り上げのことをぼやいていた。ところで、現在編集者はどんな生活をしているのだろう。「……妻に捨てられたよ」結婚できていたのか。あんなだったのに。ならば私も、いつか結婚できるのかもしれない。「結婚には社会性が必要だ。俺も君も、今は狂ってるんだぞ。結婚なんかできるわけないだろ」言われてみればそうだった。編集者は狂ったから結婚生活が維持できなくなったのだ。それからも編集者はぼやき続け、結局読書はあまり進まなかった。


 帰ると榎本なごみが絵になるポーズで食卓に座っていた。このような人間が本を描けば、元編集者が言っていたように売れるのだろうか。本の売り上げも作者のルックスが握っているのか。だとしたら空しいものがある。しかし綿谷りさや斉藤……なんとか、とにかく元水島ヒロだった誰かが書いた小説は実際売れている。やはり元編集者の言っていたことはあながち間違いでもなさそうである。


 絵になるポーズで食卓に座っていた榎本なごみは、私の家族に受け入れられているようだった。誰も食卓に他人がいることについて何も言わないし、疑問の視線を向けることもしない。何を言って私の家族に取り入ったのだろう。家族と仲の良くない私には想像もつかない。そんな榎本なごみに、二日連続でなめくじと話したことを報告した。報告するほどのことでもないが、ほかにやったことと言えば読書とネットと睡眠のみである。「それは良くない兆候だねえ」と榎本なごみは言った。「なめくじは不吉な動物なんだよ」私はそんなことを知らなかった。しかしそれをネットで検索して確かめる気にはなれなかった。検索すれば、きっとなめくじの画像が大量に画面に表示されることだろう、一匹だけ視界に入ってくるならまだ大丈夫なのだが、一度に大量のなめくじを見るのは、少しつらいものがある。だからこの件に関しては、とりあえず心には留めておく、程度に留めておくことにした。

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