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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
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2011年10月19日

※この作品は作者の日記ではなく、純然たる創作であります。

10月19日(水)

 今日は予約が入っていた日だったので病院へ行った。いつものように40分待たされた。5分間の診療の間に、この病院は待ち時間がいつも長いですね、と医師に言うと、「じゃあ警察呼ぼうか?」と返された。どう思考が飛躍したのか、一瞬理解が及ばなかったが、まあ、狂人を相手にしているのだから、隙あらば警察を呼ぶという強めのカードを切らなければならないのだろう。精神科の医師というものは大変なものだ。私はもうこの病院には行きたくない。しかし選択権がないので次回もきっと行くのだろう。


 その帰りに、本屋に立ち寄り、週刊誌を読んでみると、後半のページの隅のほうに「作家『猿』は本物の猿だった!?」というスクープが掲載されていた。しかしスクープと呼ぶにはあまりにも扱いが小さかった。しかもあまり信用のおけない雑誌なので、きっとこれを鵜呑みにするのは余程の……いや、余程の馬鹿にはなれないはずの編集者という職業についている人物はこの情報を鵜呑みにしている。ということは、私が信用できないと思っているこの週刊誌の情報は、意外と正確だったりするのだろうか。


 それから、週刊誌に掲載されているコラムで一本、面白いものがあった。ほかの記事はただただ人の不安を煽ったり不満をあおったりするだけのものであるのに対し、そのコラムは人間の穏やかな生活が淡々と描かれていて、人間の日常には起伏がなくてもいいのだ、と思える心強い安心感を得ることができた。そのコラムのタイトルは、柏原歌枝の獄中記、と言った。ネットの風評被害が原因で犯罪者ということになり、収監されたらしい。獄中での穏やかな生活の片隅に、自分が無実であると繰り返し紙面を通じて読者に訴えられている、そんなコラムだった。面白い。


 面白いコラムで気分が良くなっても飲酒は癖になってしまっているようで、帰りついたころには体中がアルコールを求めていた。しかし既に台所では母が晩餐の支度を始めており、台所に置かれている冷蔵庫から酒を盗んで飲むことは不可能に思われた。仕方がないので晩餐後まで我慢することにした。


 その晩餐の席で、またしても家族以外の人間が同席した。それは中年の男で、名前を榎本なごみというらしい、母の新しい担当編集者だった。「君、先生のお子さん?」と新しい編集者は言うので、うなずくと、「君、狂っているね?」と、まるで医師のように私の症状を言い当てた。「君が作家になれば、話題になるだろうな」狂人を売りにして本を売るつもりか。世間が狂人が本を書くということに慣れたらどうなるんだ。「君に技量があれば、作家を続けられる。話題性だけの作家で終わったら、それまでだ」今までの編集者に比べて、この新しい編集者は随分と常識的だった。生活に起伏がなくなってしまうな、と私は無駄な心配をした。

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