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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
63/366

2011年10月16日

※この日記は作者の現実とは何の関わりもありません。

10月16日(日)

 全てのものを一まで戻すこととゼロにまで戻すことと、どちらに価値があるのだろう? などと言った抽象的なことを考えてしまうのは、また酒を飲んだせいだろう。ここ数日は止められていたのに、結局また飲んでしまった。これは私が狂っているとかではなく、私の意志が弱いせいだ。


 幻想文学のような光景が、最近時々垣間見えている気がする。昨日など、晩餐時の記憶が二つもあるし、最近は自分脳妄想内の人物かもしれない編集者という存在と実在に違いない存在である母が電話で話している光景を目にした。このような光景を見るたびに、私は軽い恐怖を覚えている。私はもう現実には戻れないかもしれない。しかしよくよく考えてみれば、現実に戻ったからと言ってそれほど良いことが待っているわけでもない。そんな気がする。このまま狂い続けた方が人生は楽しくなるのではないだろうか。映画などで描かれる気の狂った人間は大抵楽しそうに、それが観客の恐怖を喚起するように笑っている。しかし当人は実に楽しそうに笑っている。もし今私が笑ったら、恐ろしい笑顔になるだろうか。


 昨日は家に閉じこもりっぱなしだったので、今日は外に出ることにした。行先は例によって図書館である。そこで私は検索機を用いて、猿という名の作家が存在するのか調べてみた。するといくつかの本が見つかったので、本棚に取りに行った。「動物園のメリーゴーランド」というタイトルの本を探してみると、そのレーベルは小早川つばさ文庫だった。つまり児童文学だった。これがデビュー作であるらしかった。


 児童文学だから読まない、などという理由はないので、借りて持って帰って読んでみた。しかしこれが意外と読みづらかった。まず文字が普通の本に比べて大きすぎる。それからすべての漢字にルビが降られているのが割と邪魔である。内容は、まあ、夢がいっぱい盛られすぎていて現実感が薄いというか。


 私が一人で晩餐の席に座っていると、母と新しい担当編集者が電話で話をしていた。母は笑顔で本の内容について打ち合わせをしていた。気になるのは、母が新しい担当編集者を「榎本さん」と呼んでいたことだ。榎本という名字の社員が多い出版社なのか、それとも私が見ている光景が幻想なのか、だとしたらどこからが幻想なのか、どこまでが現実なのか。そういえば母の仕事を受け持っている出版社の名前を私はまだ知らなかったので、母に尋ねてみた。「とうきょう出版よ」と母は答えてくれた。頭狂、という単語を思い出した。それが地名だったか状態の名前だったか物体の名前だったか、聞いた覚えはあるのに思い出せなかった。もしかしたらそれをまだ知っていないのかもしれない。日記を読み返せば思い出せるのかもしれないが、結構長いこと書いてしまっているし、読み返すのが面倒だし、私が日記に書いていることがすべて真実であるとは限らないのだ。

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