2012年7月6日
※この作品は作者の日記ではありません。
7月6日(金)
将棋に人生を捧げるほど将棋にのめり込むと棋譜を口にするだけで将棋を打つことができるという。つまり道具すら必要なくなってしまうのだ。それは羨ましい、と私は思う。即物的な理由で。私が住んでいる部屋に将棋盤はない。しかし小学生の頃、将棋のルールは覚えた。将棋を誰かと打ってみたいと思う。しかし誰と打てばいいのだろう。榎本なごみか。それとも希穂か清人か百合心音かキノコ人間か。どれも将棋なんかより重要なことが山ほどありそうであり、将棋などというもののルールすら知っているのか怪しいところである。よって私は寂しい。
昨日の続きだ。榎本なごみの姿を宮崎第一高校の校門前で探していた私は夕刻になって他の生徒に混じって下校しようとする榎本なごみを発見した。「あなたから接触してくるなんて、珍しいこともあるもんだ」と、私を発見した榎本なごみは驚いていた。私は榎本なごみに頼み事を申し出た。家に居座っている私の小説の登場人物である死神の少女と吸血鬼の少年を榎本なごみの家で預かってもらえないだろうか。二人は私の部屋に居座っているため、落ち着いて小説を書くことすら出来やしない。「いいよ」と榎本なごみは言った。「私は、都合のいい存在だからね」少し諦めたようなトーンで。
そして今日になり、死神の希穂と吸血鬼の清人を引っ越させた。引越し先の榎本なごみの家の鍵は空いていた。「開けておくから」と昨日榎本なごみが言っていたのである。それって無用心なんじゃないのか、と指摘すると、「大丈夫だよ、私は現実の人間じゃないから」と言っていた。現実の高校に通っているというのに、そう言ったのだ。ともかく私たち三人は榎本なごみの家の玄関に到着した。門を開いて家の入口の扉まで歩くと、そこには「希穂さん、清人さん、空いている部屋をご自由にどうぞ」と書かれた紙が貼ってあった。希穂と清人は家に入っていって、私は家には入らずにそのままマンションに帰ることにした。部屋に帰ると私は寝転んだ。今日は小説は書かなかった。