2012年7月3日
※この作品は作者の日記ではありません。
7月3日(火)
朝、出勤前に希穂と清人を起こした。結局昨日からずっと部屋に泊まっているのである。そして二人して私の部屋の床を占有して眠りについたのだ。私よりも安らかな表情で。最近、酒のせいで眠りが浅い私の脇で。悔しかったので軽く踏んでみたが、何の反応も起こさなかった。本気で踏めば起きたかもしれないが、同時に胃の中のものを吐き出す可能性があったので本当に本気になるのは止めておくことにした。
勤務場所で勤務中、私はおもむろに席を立った。ついに上司に話しかけることを決意したのである。私は百合心音の席の前に立ち、尋ねた。どうして私の小説の登場人物が私なんかと比べものにならないくらいの金銭を所持しているのか、と。私が一番気になった点はそこだったから、それを尋ねたのだ。「あなた、小説の中で、誰が幾ら持ってるか描写した?」小説の登場人物は学生であるが故に金銭が必要になる機会は少ないため、そんな描写はしていない。「だからじゃない? 二人にとって都合のいい額が財布の中に入っている、という状態になったのよ」じゃあこれから幾ら持っているのか書き足せばそうなるのか。まあ、そんなただの作者のエゴみたいなことはやらないつもりではあるし、母も大量の金銭を宿泊代として払ってもらって助かっているのだ、わざわざ所持金を減らす必要はないか。
家に帰ると二人は出かけていた。どこに出かけていたのかは母に訪ねても「どこに行くか言わなかったわよ」としか帰ってこなかった。二人は貴重品をおいて家を出ていた。このマンションに住み着くつもりらしい。私は貴重品の中身を除いていた。貴重品とはもちろん財布のことである。希穂は五十万、清人は三十万持っていた。こんな量の札束を持ち歩くことに危機感を抱かないのだろうか。普通は口座に入れておくべき金額である。帰ったら問いただしてみよう、お前たちには銀行の口座がないのか、と。