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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
315/366

2012年6月24日

※この作品は作者の日記ではありません。

6月24日(日)

「彼女」とか「きみ」のためのラブソングを世の中に流通させてしまって、しかもそれが大ヒットしてしまったりしてしまった歌手は、一生「きみ」とやらのために愛を歌い続けなければならない。そう考えると自分が歌手でなくて良かったなあ、と思う。自分の歌に飽きてしまうほどコンサートやライブで歌わなければならないのだ。歌うことは一種の快感であるはずなのに、それに飽きてしまうというのは悲しい。AV男優と同じような悲しみである。きっとAV男優だって射精に飽きてしまっているに違いない。それは悲しいことだと思う。


 そんなことより昨日の続きを書かなければならない。山口県の雑貨屋ビルで私が発見した希穂は、小物を買い込んでいた。そんなに小物ばかり買ってどうするつもりなのだろうか、と私は思った。身につけて街中を歩いて人々に見せびらかすのだろうか? だとしたらそれはナルシストの所業じゃないか。「ナルシズムに浸るのは気持ちのいいことなんですよ」と未だキャラが定まっていない希穂は安定しない口調で言った。そんなに気持ちのいいことであれば、体験してみるにやぶさかではない。そこで私も小さなネズミのキーホルダーを手にとってみた。そしてレジに持っていこうとして、自分は自分専用の鍵も自分専用の金銭も持ち合わせていないことに気がついた。「ほら」と希穂が小銭を手に乗せて私に突き出した。私は自分の小説の登場人物の奢りで小物を購入した。


 そして土曜の夜。ホテルに戻ってテレビをつけるとアニメにかやっていなかった。しかもちゃんと映ったチャンネルは4つのみ、ここは本当にニューヨークと見まごうほどの大都会なのだろうか? 物語化された都市に生きる人々はそんなにアニメに植えているのだろうか? その代わりというか、なんなんだろうか、部屋にはノートパソコンが設置されていた。ご自由にお使いくださいということなのだろうか。電源を入れてネットに接続してみると、そこにはもう覚えるのも面倒なほどの架空のニュースが並べ立てられていた。その内容をここに書き記してもきっと無駄だろう、だって物語化された世界での出来事なのだから。現実世界には関係のない出来事ばかりである。


 さてそんな土曜日が終わり、ここからやっと日曜日のことなのだが、今日は移動日だった。私たちは山口を脱出し、現実に沿った体の重みのせいで気分まで重苦しくなり、そんな気分のまま車は九州自動車道に突入していった。座り疲れたので車で寝ようと思ったのだが高速道路特有の「ゴー」という音がうるさく感じて眠れなかった。それとも体を横にできなかったのが原因だろうか。とにかく眠りたいのに眠れない、体がだるいのに動かしようがない、そんな辛い七時間を過ごし、ようやく私たちは宮崎駅に到着した。ところで百合心音の用事って何だったのだろう? 疲れのあまり訊きそびれてしまったので分からなかったのだが、今になって気にかかる。

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