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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
313/366

2012年6月22日

※この作品は作者の日記ではありません。

6月22日(金)

 車で山口に入ると同時に体が急に浮いたような気がした。しかし気のせいで、背中はしっかりと助手席に吸い付いていた。そして日が陰った。何事かと思っていたら、目の前には摩天楼が広がっていた。確認しておくがここはニューヨークではなく山口である。そして日が陰ったのはスモッグが原因だった。ここは山口である。山口ってこんな福岡を凌駕するような都会だったっけ、と思い返してみる。現実にはそんなこと有り得ない。しかしここは既に物語化された土地であるが故に、こんなことがあり得るのか。「そうよ」確認を取ってみると、百合心音は相槌を返した。


 車は巨大なビルのひとつの地下駐車場に入っていった。そしてひたすら広い駐車場のビル内出入口にほど近いスペースに車は停められた。ビル内出入口にはガードマンが立ちふさがっていたが、百合心音は顔パスで内部へと入り、そのまま私たちを連れてエレベーターで3階に上がり、ラウンジに私たち4人を残して「打ち合わせがあるから」と立ち去って行ってしまった。ラウンジにはテレビが設置されていて、それには架空予報が流されていた。架空予報といっても何のことだか分からないかもしれないが、画面には確かに架空予報と書いてあったのだ。架空予報からはこんなナレーションが流れていた。「次回主人公は宮城県の布衣静雄さんに決定しました。片田舎が舞台のミステリーになるので仙台市の交通量は80%減ります」わけのわからないことを言っていたが、死神の少女と吸血鬼の少年と幽霊はそれを興味深そうに眺めていた。さすがは架空の存在、物語化された世界への順応が早い。


 夜まで私たちはラウンジで待たされ、それから私たちはビルを出てホテルへ連れて行かれ、そのホテルは移動日に泊まったホテルとは比べものにならないほど豪華なものであり、夕食はビュッフェ、いやバイキングか? とにかくそんな感じの夕食だった。それだけだったら心躍るところだったが、私だけが百合心音に呼び止められて、何か用かと思っていると、以前宮崎のホテルで打ち合わせをしたことがある女性編集者と会わされた。「それで、依頼していた作品の方は、書き進められそうですか」こんな特殊な経験をすれば、ネタに困ることはないはずである。と、私は建前を言った。しかしいくら経験が伴っていたからといって表現力が伴わなければ書けるものも書けないものに変身してしまうのが小説というものである。「では、宮崎に入ったら直ちに小説を書いてくださいね。この世界が存在していられるのは現実世界での創作があってこそ、なのですから」しかし私に求められているものは駄作である。「駄作でも、です」女性編集者は力強く言った。「だから、なるべく早く完成させてください。今年中というのは、最終ラインだと思っていてください。そう、九月には既に出来上がっている、というのが望ましいですね」九月か。そんなに早く書き上がるだろうか。いや、毎日書けばそれも不可能ではないはずだ。

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