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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
302/366

2012年6月11日

※この作品は作者の日記ではありません。

6月11日(月)

 ヘッドバンガーという言葉を聞いたことがある。大槻ケンヂの造語である。ヘッドバンキングの力で首に装着された電極に刺激を与え、発電するというエコこの上ない発電法である。もちろんこのヘッドバンガーという言葉は少なからず物語化された世界では実用化されており、日本の電力のおよそ0.6%はヘッドバンキングによってつくられている、というのは嘘である。もしそんなことになったらヘッドバンキングをやるためのライブを開くための電力を必要なところに回したほうが早いに決まっている。この世界はまだそんな不便でロマンチックな発電法が実用化されるほど物語化は進んでいない。百合心音の世界を物語化させるらしい計画はどの程度進んでいて、いつ終わるのだろうか。明日尋ねてみようか。


 今日はずいぶん歩いて、宮崎県最大の市街地まで出た。しかし宮崎県最大の市街地に人影は少なかった。なぜならば平日だからである。関東近郊の「地方都市」に比べて、宮崎の「市街地」は人が少ない。人口密度の差である。寂しい。退屈だ。こんな土地からはさっさと離れてしまいたい。そのためには、まず……働いて、稼いで、引っ越さなければならないのか。面倒だ。宮崎は関東近郊に比べて賃金が安い。だから関東近郊で働くよりも関東県へ引っ越すための資金を貯めるのに時間がかかる。面倒だ。こんな面倒な目に遭うなら働きたくないとすら思う。でも明日は勤務日である。勤務先で百合心音に世界の物語化の進行状況について尋ねなければならない。今日はこれを胸に抱いて、明日の面倒この上ない勤務に備えようと思う。


 晩餐時には久々に腹の虫が鳴いた。市街地まで歩くという激しい運動をしたせいである。今日は市街地まで出た、ということを母にも報告した。他に話題もないことだし。母は言った。「寿屋はどうだった?」寿屋は、かつて市街地に君臨していた大型デパートである。20世紀末か21世紀初頭かその辺に倒産して閉店した。それから寿屋はカリーノと名前を変えたりしたがそれもすぐになくなって、今は一階と二階が蔦屋書店とレンタルショップTSUTAYAになっていて、それより上はオフィスビルになっている。「ああ、寿屋はもうないんだっけ」一体何年前を生きているんだ、母は。「最近、五十年前の小説を翻訳する仕事をやってるから、五十年前を生きてるわ」そうか、新しい仕事が入ったのか。目出度い話である。

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