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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
289/366

2012年5月29日

※この作品は作者の日記ではありません。

5月29日(火)

 朝5時に目覚めてしまったので酒を飲んで寝直そうとして、冷蔵庫を開けて日本酒を胃に入れたところ、まるでかさぶたを開いた時に出てくる膿のように反射的に腹に入れたばかりの酒と胃液が同時に出た。つまり飲んで即戻してしまったのである。これはアルコール依存の初期症状である。内臓がやられているのにアルコールを求めてしまうのだ。ともかく私は少しも酔えなかった頭と体をフル回転させて母が起きてくる前に大量のティッシュを使って吐いた酒と胃液を床から拭き取った。おかげですっかり目が覚めて、母に「今日は早起きね」と言われてしまった。朝食はいつものように用意されなかった。


 眠れず食べられず、いろんなものが欠落した身体を引きずって仕事に出かけた。別に仕事自体は辛くないのだが、そこに行くまでに構えておかなければならないことを考えると頭が重い。これから行く場所は社会の一部なのだ、これから私は社会に一時的とはいえ復帰するのだ、そう考えると気が重くなってしまうのである。実際行ってみれば別段そんなに辛くないのに、行くまでの段階で躊躇ってしまう。この考え方は非常に厄介で、行動の邪魔にしかならないのだから、即座に改めるべきである。と日記に書いて考え方の変更を自分に言い聞かせておくことにしよう。今日は上司である百合心音に話しかけられることはなかった。まだ一応、気にはなっているのだ。まだ私は百合心音を普通の人間と認識することは出来ない。


 世界の物語化はどこまで進んでいるのだろう、もしかしたら私が死んでもまだ終わらないかもしれない。晩餐を取りながらそんなことを考えた。いや、私が死ぬまで、というと長い期間のことを言っているようだが、私はきっと長生きしないだろう。こんな頭の狂うような人間が長生きなんかしたら社会の迷惑である。私は早めに死んだほうがいい。世間もきっとそれを求めている。そう考えると何もかもがどうでもよくなってきた。これは私の思考のせいか、それとも晩餐に今日も刻まれて混ぜられているキノコのせいか。とりあえず自分を安心させるために、キノコのせいだと思っておこう。ネガティブな持ち主は人に好かれることはない。……好かれたいのか? 誰かに? 狂っているくせに?

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