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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
287/366

2012年5月27日

※この作品は作者の日記ではありません。

5月27日(日)

 小説を書こう、と決めてから書き始めるまでに間が空いてしまうこの癖は是正されなければならない。思い立ったらすぐに書き出さないと、今年中に仕上げるという女性編集者との約束すら守れないかもしれない。だから今日は小説を書くべきだった。もう深夜になってしまったので、後悔することしかできないが。こんな日記書いてる間に書けってんだ。総自分に言い聞かせてみるが、一向に気が乗らない。困った。


 とりあえず日記らしいことを書いておくことにする。今日は図書館へ行き、いつものように本を返して借りてから榎本なごみの家に寄った。昨日母に命じられたとおりに妹を迎えに行くためである。榎本なごみの家の玄関のチャイムを押すと榎本なごみと妹が二人して出てきた。「ちょっと連れて行きたいところがあるんだけど」と妹が言うので、帰る前に連れて行かれることにした。妹は家の近所の私有林を突っ切る舗装道路から外れて通っている獣道に足を踏み入れた。もう少し気候が夏らしくなっていたらいくらでも蚊に刺されそうなほど鬱蒼とした道だった。しばらく歩くと、木々が途切れた地点に出た。そこにはゾンビが寝ていて、その傍らに狼が行儀よく座っていた。狼は私を見るなり喋った。「そろそろ小説を書いたらどうだ」と。私は、明日にでも書こうと思う、と返答した。狼は「けっ、また逃げるのかよ」と言った。ところで横になっているゾンビは一体何者なのだろう。この前家に来て塩で溶かされたゾンビと同一の存在であるらしいのだが。「俺が噛んだら失血死したんだよ。ちょっと罪の意識が芽生えたから蘇らせたんだけど、目的もなくウロウロするばっかでなんにもやろうとしやしねえ」狼が答えた。「ね?」と妹は私をむいて言った。なにが「ね?」なのか、私にはさっぱり分からなかった。


 それから私と妹はマンションに帰った。「あんたみたいだね、目的もなくウロウロするってあたり」妹が歩きながら言った。どうやらゾンビと私の共通点を指摘したらしい。しかし私は目標もなくウロウロしているわけではない。狂った自分の精神を治す、という大目標が一応はあるのである。「本気で治す気ないでしょ」そんなことはない、と私は力強く反論した。あくまで力強く。それから家に帰って妹は母に叱られて晩餐の時間は遅れた。

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