2012年5月26日
※この作品は作者の日記ではありません。
5月26日(土)
今日は雨が降っていた。傘がないわけではないので外に出ることができないわけではないのだが、それでも晴れの日に比べれば億劫である。しかし今日は必要に応じて外に出ているのだからしぶしぶ雨の中を歩かなければならなかった。ちなみに何も用事がない日は一日中外に出ない。しかし最近、用事のある日がだんだん増えてきている気がする。社会復帰できる兆候なのかもしれない。そう考えると気が重かった。なぜだ。
それからそろそろ小説の続きを書かなければならないなあ、と考えながら私は母に命じられた用事を済ますべく外を出歩いていた。用事とは榎本なごみの家を探して妹を連れて帰ることである。しかし私も母も榎本なごみの家がどこにあるのか知らなかったので、私は一軒一軒虱潰しにそこが榎本家であるか否かを確かめていなかければならなかった。そうしているとやがて、やや庭の大きな、しかしその大きな庭には雑草が生い茂っているもったいない家の表札に「榎本」と掘られているのを発見した。門前にチャイムがあったので押してみると「はーい」と榎本なごみが現れ、私を出迎えた。門まで歩いてくる榎本なごみに向かって、家族はどうしたのかと尋ねてみると「居たほうがいい?」と一瞬理解できないことを榎本なごみは言ったが、すぐに理解した。私が欲しいと言えば榎本なごみには家族が発生するのだ。榎本なごみとは本来そういう存在である。
家に招き入れられた私を妹が待ち構えていた。今日もアイロンを持って構えている。お気に入りの武器なのだろうか。しかし私は妹に強制させるつもりはなかった。やりたくないことはやらなければいい。それは私が言われたいことである。だから私はそれを他者に向けて言う。「いいの?」と妹は尋ねた。いい、と私は言った。見つからなかったことにして帰ってもいい、と私は妹に提案した。「一日待って」と妹は言った。「明日帰るかもしれないから」しかし帰ったら叱られるだろう。「うん……」それでも帰りたいのであれば、私は止めない。
結局、妹は今日は帰らない、ということになった。という交渉の結果を、晩餐の席で、母に余すところなく話した。母は「そう」と、少しもヒステリックさを感じさせない口調で私の報告に納得した。涙ながらに出て行け出て行けと言った母はなんだったのか。「あれはカッとなってただけ。家族だもの、帰ってきて欲しいに決まってるわ。明日帰ってきてくれるなら、今日くらいは大目に見るし、あんたに当たったりもしない」私には家族の心境すら理解できないときがある。その時がそうだった。