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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
281/366

2012年5月21日

※この作品は作者の日記ではありません。

5月21日(月)

 月曜日なのに朝から榎本なごみがやって来た。私にだって朝に起きている日くらいある。逆に昼まで起きていない日もかなりある。やってきた榎本なごみは、「引っ張ってでも連れてこい、って言われてさ」と、自分の用事を説明した。妹を連れてこい、である。榎本なごみの親に命じられたらしい。そんな話の中心の妹はどうしたのかと言えば、榎本なごみが来る少し前に家を出ていた。学校へ行ったのかもしれない。しかしゾンビに会いに行ったのかもしれない。「わかんない?」私には妹の気持ちを読み取ることは出来ない。家族とは最も近しい他人なのである。


 それから榎本なごみは、家に居座った。「もしかしたらゾンビと一緒に帰ってくるかもしれないから」とのことだった。帰ってこなかったらどうするつもりだ、と尋ねてみると、「サボるよ、学校なんか」と軽い調子で言った。悲壮な義務感を背負って病気に罹った日以外は嫌々ながら必ず学校に行った私とは大違いだ。きっと真面目ではないのだろう。私は学生時代、真面目な人間だという評価を受けていた。真面目な人間は報われるべきである。それなのに私の現状はと言えばこんな感じである。世の中は不条理だ。


 それから二時間くらい経つと妹が帰ってきた。ゾンビと一緒だった。「や」と、帰ってきた妹とゾンビに榎本なごみは声をかけた。そして制服のスカートのポケットから塩を取り出した。そして蓋を開けると、その中身をゾンビにぶちまけた。するとゾンビは溶けた。まるでなめくじのようだ、と私は思った。それから妹と榎本なごみは喧嘩をした。とても激しく。


 ひとしきり引っ張り合って傷を付け合うと、二人とも疲れたらしく床に転がった。妹は泣いていた。榎本なごみは泣いていなかった。「友達に、なろうよ」と榎本なごみは妹に言った。二人は友達じゃなかったのか、と私は驚いた。「嫌だ」妹は言った。「ゾンビを殺すような人とは一緒にいられない」という意味のことを、乱暴な口調で言った。「そっか。じゃあ、あなたはいいや」そう言うと榎本なごみは私に向き直り、「友達になってよ」と妹に言ったことと同じことを口にした。私はそれが誰に何を言っているのか一瞬分からず、なんのリアクションも返せないでいた。榎本なごみはなにものなのか。私には未だにわからない。

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