2012年4月29日
※この作品は作者の日記ではありません。
4月29日(日)
何もない日、かと思っていたら昨日の女性編集者から電話があった。母が出たのを私に代わったのだ。念押しの電話だった。「一年に一作のペースでいいんです、書いていただけないでしょうか。猿先生の望みなんです」なぜ私なのか、と改めて問うてみた。「それは猿先生にしかわかりません」もちろん私にも分からなかった。
冷蔵庫を覗くと酒が入っていた。どのタイミングか知らないが母が買ってきていたらしい。飲もうかと思ったが、酒の蓋を開けて匂いを嗅いでみると猛烈な吐き気が腹の奥から迫ってきた。トイレへ行ってみてしばらくえづいてみたが吐くことは出来なかった。どうやら酒の臭いに対する耐性がいつの間にか無くなってしまっていたらしい。いつも起こる不可思議な現象のひとつだろうか。そんな筈はない、私の体質に変化が起こっただけだ。
晩餐時、母はカレーを肴に日本酒を飲んでいた。「飲まなきゃ生きてられないわよねえ、もうすぐ私は仕事なくなるんだものねえ」翻訳の仕事がなくなっても別の仕事を探せば良いのではないだろうか? 「そんな気楽なもんじゃないわよ」それは理解している。「翻訳家なんて仕事がなくなったからって失業保険効くわけじゃないしさあ」我が家の家計は母の収入と私に対する福祉で成り立っている。そろそろそれに頼る生活も限界なのではないだろうか。「お父さん、どうしてるかなあ」自分から捨てておいて、母はそんなことを言った。