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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
250/366

2012年4月20日

※この作品は作者の日記ではありません。

4月20日(金)

 ネットで調べた結果、百合心音なる人物は一件もヒットしなかった。どんなに適当な名前を入力してもどこかにヒットするはずのネット検索が百合心音という人物を無視したのである。いや、百合心音がヒットしなかったわけではない、ネット上の名前として「心音」を使っている人物の個人的なページには何件かヒットした。しかし百合心音という人物について記述されたページにはたどり着けなかった。ネット側の陰謀かもしれない、と考えるのは考えすぎだろうか。


 小説を書こうとしたが止めておくことにした。百合心音のことがあの日から気になって仕方がなくて、とても別の物語を記述する精神状況に私はない。「それって逃げてるだけじゃねえかよ」と頭の中の狼は言うが、まあそう言われればそうかもしれない。小説を書くという誰からも課せられているわけでもない責務から逃げるために私は百合心音に気を取られているのかもしれない。


 晩餐にとんかつが出たのだが、母の作るとんかつのクオリティは店のものより遥かに劣る。まず硬い、それから水気がない、それから焦げ目の占める割合が多い。いわば揚げられた無味の硬い繊維質の代物なのである。これではキノコが入っていたとしても大差ないだろう。そんなキノコは今日は味噌汁に入っていた。そんな味噌汁で水気の少ないとんかつを飲み込んでいると、電話があったので母が出た。そして話が進むにつれ、母の声は次第に明るくなっていった。「やったわよ」電話を切った母はしさしぶりに笑顔で言った。「あんたの働き口が決まったわよ」まるでめてたいことであるかのように母は言った。母にとっては実際にめでたいことなのだろう。そうなのだろう。

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