2012年4月5日
※この作品は作者の日記ではありません。
4月5日(木)
最早毎週木曜日にサロンに通っていたことが幻のように思い出される。思い起こせば特に楽しくなかった。自分以外の狂人と顔を合わせたからといって得られるものは特になにもなかった。何もない時間。それを大切だという人もいるが、それは私が感じていた何もない時間とは意味合いが違うものだと思われる。
小説を書いた。吸血鬼の男と死神の女の間に突然現れさせてしまった鬼灯という少女の処遇に困った。この人物の立場をどうするのかに一日を費やしたと言っても過言ではない。死神と吸血鬼以外の何か幻想的な生物にするのか、それともただの人間にするのか。迷った挙句、実は幽霊ということにした。榎本なごみが変な笑みを浮かべたのが見なくてもわかる。分かるが、私の小説に設定だけとはいえ登場したのが嬉しいのだろうか。そんな筈はあるまい。私は単なる落伍者であり駄目人間である。ともかく鬼灯の幽霊設定は小説の後半に明かすことにして、吸血鬼の男に恋してるんじゃないかと指摘された死神の女にどういった反応を取らせるかを考えた。しかし幽霊という設定を思いつくのに体力を使い果たしたため、作ることができなかった。一日一食しか饗してくれない家族のせいである。
かと言って晩餐の席で母に向かって食事の回数を増やせという出過ぎた要求をする勇気はない。自分が傲慢なのか謙虚なのかわからなくなってくるが、こんなことを考えてしまうのは自分が傲慢な人間である証拠となるだろう。そんなことを考えながら晩餐を食し、混入されていたキノコで昏倒し、深夜に目覚めると榎本なごみの姿が消えていた。