2012年3月24日
※この作品は作者の日記ではありません。
3月24日(土)
雨が降っているから人の目も少なかろうと思い、図書館へ歩いていくことにした。人と目を合わせたくないから雨の中歩いていたというのに、人と向かい合ってしまった。相手は女子高生だった。制服を着ているから女子高生と呼んでいるのだ。宮崎に女子高生のコスプレをして歩き回っている人間がいるとも思えないし。そうして私一人が気まずいまま向かい合って歩いていると、全く唐突に、女子高生は倒れた。持っていた傘も転がって行ってしまった。
近づいてみてみると、女子高生は榎本なごみそっくりだった。そのせいか、気が緩んだのか、気がとち狂ったのか、私は倒れた女子高生に話しかけた。すると女子高生は弱々しく応答した。「あ……大丈夫……ですから」そう言うと榎本なごみそっくりな女子高生はおぼつかない足取りで立ち上がり、傘を取りにも行かずに私に話しかけ続けた。「時々、抜けるんです。何かがふわぁーっと。そうすると、いつも倒れてるんです。今日は初めて、倒れてる時に話しかけられて、目覚めることができました」それから、ありがとうございました、とお礼まで言った。本当にあれは女子高生だったのだろうか。
不思議に思いながら晩餐を口に運んでいると、榎本なごみが玄関から飛びながら戻ってきた。体は相変わらず半透明のままである。今日、どこかから抜けるような気分にならなかったか、と尋ねてみた。「そんなこと、ありませんでしたけど?」榎本なごみは言った。「もしかして、何かあったんですか?」何かあった、と私は言った。何があったのかは言わなかった。「教えてくださいよう」と榎本なごみはせがんだが教えなかった。なんとなくだ。