2012年3月13日
※この作品は作者の日記ではありません。
3月13日(火)
書店に行って履歴書を買った。就職用の趣味・特技欄があるタイプとバイト用の趣味・特技欄がないタイプがあったので、バイト用を選んだ。私の趣味は読書で、特技は特にない。こんな当たり障りのなさすぎることを履歴書に書いたりしたら不採用に決まっている。だから趣味・特技欄のないものを選んだ。採用されたいのだろうか、私は。特に働こうという情熱も無いのに。
それから母に渡された七百円を使って証明写真を撮った。写真を撮る際。自分の顔を見ながら位置を調整しなければならないのが苦痛だった。私は自分の顔をじっと眺めることが苦手である。自分の顔がどの程度のレベルなのか、知りたくもない。顔については無関心を装って生きていきたい。そもそも私は人間の顔があまり好きではない。変形しすぎるのが気持ち悪いし、バランスの悪い顔を持っていると迫害される。そんな差別が嫌だ。こんなことを考えてしまうのは、私は面食いだからだろうか。だとしたら私はとても嫌な奴だ。
家に帰って履歴書を書いた。学歴を書くのに苦労した。というのも、大学を中退した年を思い出せなかったからである。思い出そうと勤続年数から逆算してみようとすると、頭の奥から「そろそろ小説の続き書けよ」と狼の声が聞こえてくる。おかげで思い出すのに時間がかかった。いや、思い出せなかった。結局、適当な平成の年を書いてごまかしたのだ。採用者も何年に大学を卒業したかとか、そんなことを深く突っ込んだりはしないだろう。大切なのは働ける能力があるか、こいつが職場にいて不快じゃないか、なのだから。
晩餐の席で、面接に対する心構えを母に解かれた。曰く、返事ははっきりと聞こえるように、誠実な瞳を相手の目と合わせるように、服装の乱れをしつこいくらいチェックしておくように、等等である、ところで母はこれまでどんなバイトを経験したことがあるのか。「ないわよ。大学に行ってる最中に絵本作家としてデビューしたから」それでよく面接に関するアドバイスが堂々とできるものだ。