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このキノコ人間が。  作者: 天城春香
誰かの日記
199/366

2012年2月29日

※この作品は作者の日記ではありません。

2月29日(水)

 昨晩私に打たれていた点滴は一体なんだったのか。点滴の交換に病室に来た看護師に尋ねてみると、鎮静剤である、とのことだった。なんでも、もし狂人が暴れて被害を出した場合でも、責任能力なしと判断されて実刑が下されない場合が多いらしい。だから狂人には強制的にでもおとなしくしてもらわなければ我々常人が困る、とのことだった。私は暴れる意思はない、と主張した。「そう言う人ほどカッとなりやすいんですよ」看護師は言った。


 それからベッドで午前中を過ごさなければならなかった。テレビは有料だから見る気がしないし、そもそも午前中のテレビなど面白いはずがないのでリモコンを手に取ろうとさえしなかった。あまりにも時間がゆっくりと流れていくので、私は気が狂いそうになった。私のベッドからは窓の外も見えやしない。見えるのは開きっぱなしの病室の扉の向こうの廊下を時折通り過ぎる医師や看護師や患者の姿くらいだ。人間など観察しても面白くもなんともない。


 午後になると、点滴を打ちながらではあるが歩いても良い、ということになったので、病院内を少し歩いた。ロビー風の広間(正式名称が思い出せない)では大勢の患者が一つの大きなテレビに集中していた。テレビでは笑っていいともをやっていた。誰も笑わずに、患者たちはそれを見ていた。


 売店があったので雑誌でも買おうかと思ったが、持ち合わせがなかった。私には現在、一億円近い預金がある。それをおろせば雑誌などすべて購入することすら可能だというのに、私は病院に敷地から出ることを禁じられていた。ナースステーションへ行って、とりあえず預金を下ろすためだけに外に出ることは可能か、と尋ねてみた。看護師たちは笑っていた。「無理よ」年配の看護師は笑いながら言った。何が面白いのか私には分からなかった。


 それから夜になり、またまずい病院食を食べさせられた。そういえば今日は幻覚を見なかっが気がする。点滴が効いているのだろうか。いや、この点滴は鎮静剤のはずだ。それとも途中から幻覚を抑える薬に変わったのだろうか。しかし油断はできない。この病院自体が幻覚ではないという保証は、まだ無いのだ。

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