2012年2月28日
※この作品は作者の日記ではありません。
2月28日(火)
寝て起きれば元の家に戻っているだろう、と見込んで何もない家出一夜を明かしたのに、起きても何もないままだった。椅子の一脚もなければ人が住んでいた形跡らしきものすらない。もうしばらく、ここで狂いが覚めるのを待つしかないのか。狂いって覚めるものなのか? と思っていると、知らない人物が部屋の鍵を開けて現れた。「あのー」知らない人物は言った。「不法占拠? は、困りますねえ」
知らない人物はこのマンションの掃除人だと身分を名乗ったゴミ捨て場や敷地周辺、それから空き部屋やろうかを掃除するのが仕事で、日雇いの出来高制で働いているということも必要ないのに教えてくれた。「それで、あんたはここに家族が住んでいた、と。そう言い張るんですね?」私は首肯した。部屋番号もマンション名も間違えていないはずである。「嘘はついてないんですね?」もちろんである。「あなた、狂ってますね?」狂っていたらどうするというのだろう。「とりあえず警察読んで、保護してもらいますね」狂人とはそこまで厄介ものなのか。
抵抗虚しく警察を呼ばれ、私は警察の手によって総合病院まで連れて行かれた。ここでどうしろというのだ、と私は警官に尋ねた。「とりあえず入院しといてください」私の家族に連絡は行かないのか、と尋ねた。「ご家族の連絡先、言えます?」狂人を馬鹿にするんじゃない。私は家の住所と母の携帯番号をすらすらと答えた。警官はそれをメモし、「じゃあ、入院しといてください」と言った。せっかく伝えた連絡先がちゃんと活用されるのか、不安である。
それから病院に入ると、どこかの筋からか連絡が入っていたらしく、私は即座に病室に連れて行かれ、六人べやのベッドの一つを与えられた。部屋には私の他には一人だけ患者が寝ていた。その患者はベッドにカーテンを引いていたため、どんな患者なのかは分からなかった。私はぬるくてまずい病院食を食べさせられ、点滴を打たれながら日記を書いた。この点滴はなんの点滴なのだろう。明日尋ねてみることにしよう。