2012年2月23日
※この作品はフィクションであり、登場する人物・団体・地名などとは一切関係ありません。
2月23日(木)
結局私は家に帰らず近所の街のビジネスホテルで一夜を明かした。親不孝者である。持ってきた本は読み終えてしまったので退屈だった。それにこれからどうすればいいのか、私は考えなければならなかった。一億円があるのでしばらくホテル暮らしをすることは可能だが、それも3月16日までだ。どうして私は夢のお告げをこんなにも信頼してしまっているんだ。わからないが、とにかく長いこと家を留守にするわけにはいかないし、できない。いつかは帰らなければならない。そう考えると気が重かった。
いつまで、と決まっていないのと同様、いつ帰るのか、とも決まっていなかったので私はその日のうちにしぶしぶ家に帰ることにした。いつ帰ることになっても渋々帰ることになったに違いない。マンションに到着し、扉を引いてみると開かなかった。母は職業上ほぼ常に在宅しており、鍵もめったにかけないので、買い物にでも行っているか、それとも怒り心頭で私を締め出すつもりなのか。そのどちらとも言えないが、とにかく帰ると決めてしまったからには帰らないわけにはいかない。私はチャイムを鳴らしてみた。すると玄関のドアが開き、母が出てきた。「どこ行ってたの?」私たちを部屋に入れるより先にその質問が飛んできた。「どうやって行ってきたの?」さて、どう取り繕うべきか。
うまい言い訳を用意しないまま帰りついてしまった私は、真実をそのまま話してしまった。幸いなことに母には榎本なごみが見えていたので、榎本なごみ発案の家出であることは理解してくれた。「でも、それについていったあんたもあんたよね」母の口調は厳しいままだ。「それから、カード」母が手を差し出す。渡せと言っているのか。「通帳は、家にあるから、カード」母の追求は止まない。私は急に駆け出した。そしてとても親不孝な行動に出た。
私の手元にあるものは、読み終わった二冊の本と財布、それと奪うように、というか奪い取った自分の通帳、そして残高が一億円足らず、である。私は3月16日まで家に帰らない。その理由はなんと、幼稚なことに親子喧嘩である。