2012年2月14日
※この作品は作者の日記ではありません。
2月14日(火)
家を出ようとするとまた請求書を踏んだ。部屋内のゴミ箱に入れたはずなのにどうしてここまで移動しているのか。もしや私を追ってきているのだろうか? そう考えた私は、なんとなく請求書を拾ってポケットに入れ、市役所へ向かった。追われているなら仕方ない、自分を負うものから逃げ切る術を私は知らない。市役所は保健センターより遠い。相当喉が渇くことを覚悟しなければならない。
到着した市役所には運の良いことに給水器があった。腹が膨らむほど水を飲み、案内所に、どこか寄り集まれるところを紹介してくれるところはありませんか、と漠然としたところを尋ねてみた。「もしかしてあなた、狂っていらっしゃいますか?」私は首肯した。「じゃあ、狂人保険課ですね」そんな課があったことを私は初めて知った。そしてそこを案内され、私はそこに向かった。窓口は番号札をとって呼ばれるのを待つ方式だった。私は20分待たされた。
「ん?」私の顔を見た職員は怪訝な顔になった。「もしかしてあなた、請求書持ってます?」どうして初対面のはずの私の顔を見てそんなことが言えるのか。「そんな顔してたもんで」どんな顔だろう、と思いながら私は拾った請求書を見せた。「あー、こりゃ大変だ。七万四千円払わないと、あなた大変なことになるよ」しかし請求書に書かれているような博打を私は打った覚えがない。「やったやらないは関係ないんだよ。その請求書は人を選ばないから」呪いの請求書、という言葉が頭を過ぎった。
晩餐の席で請求書を母に見せた。「あんた、何かした?」少なくとも請求書に書かれているような博打を売った覚えはない。そもそも私自身が自由に使える金はここ数ヶ月ほとんど手渡されなかった。「まあいいわ。私が払っておくから」母は私を見捨てたいのではなかったのか。「愛するわが子が背負った借金よ? 払えるわよ。慰謝料もそろそろ入ってくるし」慰謝料? 「ええ、離婚成立したじゃない、言わなかった?」私は自分の苗字が変わったことをこの時初めて知った。